復権する 〈シェア〉型社会
~個人間取り引きからあらためて考える~
◆会って直接交渉・・・・広がる個人間売買
いっぽうで、「個人間取り引きなのだから、直接会って交渉したい」といったニーズは高まっており、それに応えるサービスも登場している。家具などの個人売買を仲介するサイト「ジモティー」は、マーケットのエリアが絞り込まれており、買い手と売り手が直接会って交渉することも可能だ。サイトは広告収入で運営されているので手数料はゼロ。地元同士なので送料がかからないケースが珍しくなく、もちろん消費税もゼロだ。また、リサイクルショップだと新品同様の商品でも半額どころか悲しいほどの値をつけられることがあるが、「ジモティー」は個人の交渉で「譲ってあげる・譲ってもらう」という形をとるので、買い手が一般的な中古品市場の相場より安く品物を購入できるうえに、売り手も納得して品物を手放せる。消費増税以降の契約は5割増しだという。
自動車でも個人間売買の動きが広がっている。自動車修理工場のカーコンビニエンス倶楽部が中古車仲介のサービスを始めたのなどはその好例だ。売り手がクルマを店に持ち込むと、修理・点検して推奨価格を出してくれる。マージンが安いので、買い手は中古車ディーラーで買うより数十万円も安く買うことも可能だ。売り手は高く、買い手は安く、しかも消費税がかからない。双方にメリットがあることから、新しいビジネススタイルとして人気を集めているという。
また、日本では出品代行サービスはまだ「宅オク」「オークション代行.com」などのネットが主流だが、アメリカには出品代行のリアル店舗が街頭に当たり前のようにある。家の中の不要品を手軽にマーケットに出品できる代行サービスの店が増えれば、個人間取り引きへのハードルはもっと下がるだろう。
◆「所有する」のでなく物の「機能を使う」
東大名誉教授で惑星科学者の松井孝典氏は、著書『宇宙人としての生き方』(岩波新書)の中で、地球の未来に触れて「豊かさとは所有することだが、我々は生きていくにあたって本当に物を必要としているだろうか。実は物(製品)ではなく、物の機能を必要としているだけだ。重要なのは物ではなく、その機能だ。したがって、所有ではなくレンタルという格好で物の機能を使えばいいのではないか」というようなことを述べている。現段階で、「レンタル型社会」がどんなものかはわからない。しかし、欲望を制御できる方向に行けば、いままでの所有という考え方とは違った、新しい生き方のシステムが見えてくるのではないかというのだ。
シェアかレンタルかの言葉はともかく、「自分に必要なものは、誰かが持っている」という考え方を持てばいいのだ。かつて、クルマは持ち主のステータスを誇示し、羨望させる物だった。いまは道具であり、レンタルしたりシェアして利用することで賢い消費者として賞賛される時代になっている。CtoCも、一時的なブームでもないし、全く新しいサービスでもない。もともと取り引きとは対面での物々交換が起源だ。「所有からシェアへ」という潮流にしても、昔はそれが当たり前であったところの、近所に住む人々の間の物の貸し借りに由来している。
市場主義経済の進展により脇へ追いやられていたCtoC=個人間取り引きだが、ITと交通のインフラがいったん全国に完成したことで、“成熟社会・日本”なればこそ息を吹き返すのではないか。「○○売ります」、「○○買います」。「○○が欲しい人いませんか」、「手放していい○○が余っている人いませんか。取りに行きます」etc・・・。折りしも先月末、東京・八王子市の中央大学で、卒業する学生が不要になった家財品を新入生に無償提供する「リユース市」が市の支援を受けて行われた。これまでも同様の市(いち)を開く大学はあったが、行政が動くのは同学の例が初めてである。八王子市は日野市や多摩市など近隣自治体とも連携し、市内にある他の20大学にも同様の支援を予定しているという。
これまでの価値観では、もらった物、借りた物を使うのは貧乏くさいとされがちだったが、そうではない。「もらう」、「借りる」ではなくて、物の「機能を使う」なのだ。必要なくなったら返す、あるいは人に上げる。こうした考え方を生き方のサブシステムとして取り入れていけば、これまでの〈所有〉とは違った〈シェア〉型の社会が見えてくるかもしれない。
(ライター 古俣慎吾)