羽田空港、拡充します
~地方と世界の出会いが広がる~
◆「アジアの不人気空港」の逆襲
国際的に見ると、羽田空港は人気の空港とは言いがたい。英国に本部を置く航空サービスリサーチ会社、スカイトラックスが主催する乗客アンケート「Airport of the Year」では、長くトップ10からもれてきた。2013年にようやく9位に入るものの、シンガポール・チャンギ国際空港の1位をはじめ、2位の韓国・仁川、4位の香港、5位の北京など、同じアジア圏の空港がトップ5入りしているのに比べ、見劣りは否めない。
評価が低い理由は、主に3つある。発着枠が少ないことと、着陸料が高いこと。東京都心や成田へのアクセスの悪さも指摘される。世界には、ニューヨークやロンドン、パリなど複数空港制をとる大都市は多いが、こういった都市の中心部と空港間のアクセスに比べ、東京-羽田、羽田-成田のアクセスは時間的なロスが大きい。そのため東アジアのハブ空港としての羽田・成田コンビは影が薄く、国内の地方空港から東アジアへの路線では韓国の仁川をハブとするところが多いのが現状だ。
ただ、もともと国内線のハブと位置づけられてきた羽田空港だけに、国際線が拡充されれば、地方空港から東アジアへの路線を仁川から奪回したうえに、日本の地方に向かいたい旅客を囲い込みたい東アジアの国際便各社にもアピールできる。成田には不可能な24時間発着が可能なのも大きな利点であり、今後の巻き返しは大いに期待できる。
◆五輪前の「玄関リフォーム」の意味
羽田空港の拡充と絡めて考えたいのが、2020年に開催される東京オリンピックの効果だ。これにより、日本に対する海外からの関心は高まり、観光客も増加する。実際、バルセロナオリンピックを開催したスペイン、アテネオリンピックを開催したギリシャ、北京オリンピックを開催した中国、ロンドンオリンピックを開催した英国など、ほとんどの開催国でそれまでの推移を大きく上回る観光客の増加が確認されている。しかも、データによればこの効果は長期的に持続する。
海外からの主な「玄関」が成田空港のままであれば、増加した観光客が地方にまで波及する効果は期待薄かもしれない。だが、国内地方都市へのアクセスがよい羽田が玄関になるなら、海外からの旅行者が首都圏だけでなく地方へも足を運ぶ可能性が高まる。羽田空港の拡充は、東京だけでなく、むしろ地方都市にとってまたとない「好機」なのだ。
◆「奥の間」の“お・も・て・な・し”を
これまで述べてきた通り、羽田空港を「玄関」にたとえるなら、地方都市は「奥の間」と言えるかもしれない。玄関リフォームを機に、呼び込めたお客さんを奥の間まで誘い込み、固定ファンとできるかどうかは、奥の間での“お・も・て・な・し”次第である。地方と海外を密にリンクさせる「ワールド to ローカル」「ローカル to ワールド」を実現するカギは、まさにこの奥の間における工夫にかかっている。
敏感な方はすでにお気付きかもしれないが、近年いわゆる「有名観光地」でもなんでもない街中で、外国人旅行者を見かける機会が増えている。ならば、ジンワリ普遍的に進んでいるこの流れをより積極的に引き込む工夫をしてみたらどうだろう? たとえば英語や中国語を付記した道路標識は珍しくなくなってきたが、世界には他にも多くの言語が存在する。母国語人口のトップ10を見ると、スペイン語、ヒンディー語、アラビア語、ベンガル語、ロシア語、ポルトガル語などが並ぶ。自分自身に置き換えて考えてみるとわかりやすいが、海外旅行に出かけて「へえ、こんな田舎町に」というところで日本語の看板などを見かけたら、便利に感じるだけでなく、好感度が一気に高まるはずだ。あるいは単純に、地方空港の24時間空港化を検討してみる、といった策もある。
羽田拡充の効果を思惑通り実現できれば、その恩恵は、観光産業だけにとどまらない。日本には海外からも注目される伝統産業を持つ地方都市が多いためだ。そのうちの1つ、刃物で有名な岐阜県・関市には、世界的な刃物メーカーであるドイツ・ヘンケルスの日本本社がある。地域に根付いた技術を武器に世界とリンクし、投資や人材の交流を望める地方都市は、他にも多数隠れている。日本に注目し、日本の地方都市を訪れる人が増えれば、そういった魅力に気付いてもらい、リンクを実現する機会が確実に増える。
「羽田空港拡充」という好機を生かす策を、ぜひ考えてみていただきたい。
(ライター 谷垣吉彦)