NISAへの期待と課題
~投資非課税で狙えるもの~
◆「投資へ」のシフトは成功したか?
では、これまでのキャンペーンは奏功したのか。従来の証券投資優遇税制の延長ではなくNISAを導入することになった背景には、「現実に、日本人の投資意欲が高まったとは言えない」 という事情もある。
日本銀行の 「資金循環統計(2013年第1四半期速報)」 によると、日本の家計における金融資産の構成比は、2012年度末の時点で 「現金・預金」 が54%、「保険・年金準備金」 が27%であるのに対し、「債券」 はわずか2.1%、「株式・出資金」 7.9%にとどまる。現在でも貯蓄することが重視され、投資することへの意欲がきわめて低いことが、この数値に表れている。
海外の人々の貯蓄や投資への意識は、日本人とは異なる。日本銀行 「資金循環の日米欧比較((2013年第1四半期)」 によると、米国は 「現金・預金」 は14.0%で日本の四分の一程度、「債券」 9.3%、「株式・出資金」 33.7%と、投資への意欲は四倍以上も高い。ユーロエリアでも、「現金・預金」 は35.8%と日本より低く、「債券」 6.8%、「株式・出資金」 15.2%となっている。
今年1月、東証と大証が統合され 「日本取引所グループ」 が生まれている。同グループは金融取引がグローバル化していることを意識し、海外の取引所との競争に勝ち残ることを目指している。今後、海外投資家が日本取引所で取引しやすい環境が整えられていくに従い、日本の証券市場には海外投資家の資金が流入してくることは想像に難くない。そのときに、日本人が各自の銀行口座に 「資産を眠らせておく」 という意識でいつづけると、国内証券市場の動向が海外投資家の資金の動きによって左右されることになる。これは金融安全保障の観点からも好ましい事態ではない。日本人の手で日本の景気を良くするためには、一人ひとりが投資に関する知識・意欲を高めるとともに、これまで投資経験のない人々も投資しやすい環境が作られることが必要なのだ。
◆NISA導入で期待できること
NISA普及に向けた大きな課題は 「専用口座をいったん開設すると、5年は金融機関を変更できない」 という点だ。5年もの間、口座を移せないと言われると、二の足を踏んでしまう人も多いのではと懸念される。この点を重く見た金融庁は、口座を開設する金融機関を1年単位で変更できるようにすること、NISA口座をいったん廃止した場合でも、翌年以降のNISA口座の再開設を認めることなどを2014年度税制改正要望に盛り込んだ。また、口座開設時に住民票を提出しなければならない現行の制度を改め、社会保障・税番号制度を用いることで、手続きの簡便化を図ることも要望している。
従来の証券投資優遇税制は 「本来の税率20%と比べれば優遇(減税)されるが、10%は課税される」 という制度であった。それに比べてNISAは、毎年100万円までの投資なら、利益があがっても 「非課税」 である。このインパクトは強い。これに加えて口座開設時の利便性が高まり、これまで一人ひとりが 「預金・現金」 として眠らせていた資産が投資に回されることになれば、日本経済を動かすための資金を日本人が供給することになる。
2020年に東京オリンピックが開催されることが決定し、「7年後までにインフラ整備などを進め、海外の人々を日本に迎え入れる体制を整えなければならない」 という具体的な目標が生まれた。すでに競技場・選手村の建設や道路整備に関わる建設業、セメント業や、観光産業、スポーツ用品の製造販売業、警備会社などの株価が上昇する兆しが見られる。日本人一人ひとりが 「どのように経済成長をしていくべきか」 への関心を強め、投資という行動を起こすことが、日本経済回復の大きな鍵となるだろう。
(ライター 河野陽炎)