TPPが狙う日本の医療保険
~アフラック・かんぽ提携は青田刈りか~
◆混合診療への公的保険適用の帰結
その第一手が、混合診療に対する公的保険の適用解禁だ。
医療機関で行われる診療の中には、公的保険の対象となるものとそうでないものがあるが、現在日本の保険制度では、原則的にその混合を認めていない。たとえばがん治療で保険対象外の新薬を用いると、手術費や入院治療費など従来は公的保険の対象となっている治療まで、対象外とされてしまう。そのため、海外では標準治療薬となっている薬が使えないなど、デメリットが指摘されていた。
もし、混合診療に公的保険が適用されれば、海外で認められている様々な治療法をもっと手軽に利用できるようになる。国民にとってこのメリットは小さくない。
加えて、混合診療の利用者が増えれば自由診療が増加し、これをまかなうべく、民間の医療保険の需要が拡大する。混合診療に公的保険を適用することで医療保険の需要が高まるだけであれば、特に問題はない。問題は、それにより予想される 「公的保険財政のひっ迫」 にある。
◆皆保険制度パンクの危険性も
少子高齢化が進む中、国保など公的な健康保険制度の台所事情は、現状でもかなり苦しい。厚生労働省の発表によると、2011年度の実質収支は3022億円の赤字を記録。政府の社会保障制度改革国民会議は8月5日、現在暫定的に1割となっている高齢者の医療費における自己負担率を本来の2割に戻すことなどを提言しているが、慢性的な赤字状態から抜け出す方策は見つかっていない。
混合診療を対象に含めれば、公的保険の財政負担はさらに増加する。自治体によっては現状でもパンクの危機がささやかれるところも見られる中、破綻を回避するには、保険料をより高く設定するか、現状3割となっている一般の自己負担率を引き上げるなど、受診者負担を増やす抜本的な改正が必要になってくる。
その結果、民間の医療保険の需要はさらに高まり、がん保険など医療保険の市場規模そのものが急速に拡大することになる。日本郵政とアフラックの提携は、この拡大した市場をごっそり刈り取るための下準備にも見える。
◆対抗の鍵はネット販売と独自商品の拡充
国内の保険会社がこういった動きに対抗するには、日本市場のニーズに沿った販売戦略の拡充が必要になる。鍵となるのは、「インターネット販売」 と 「独自商品の開発」 だ。
2011年に 「楽天の保険」と 「楽天リサーチ」 が行ったアンケート調査によると、医療保険を 「どこで申し込みたいか」 との問いに対して、最も多かったのは 「インターネット:64.2%」だった。ネットアンケートであるため回答者がネット利用者ばかり、という偏りはあるが、2位に入った「ダイレクトメール:30.9%」の2倍以上という大差となっており、いつでも加入できる手軽さが支持されている様子はうかがえる。さらに、同アンケートで保険選びのポイントとして重視されていたのは、1位「保険料が割安であること:81.3%」。2位「入院給付金日額が十分であること:56.9%」、3位「十分な額の手術給付金があること:49.5%」 となっており、保険会社のブランドや国籍については、ユーザーはあまりこだわりはないようだ。
アフラック以外にも、外資系保険会社はTPP交渉による日本の保険市場の変化を見越して素早い動きを見せている。スイスに本社があるチューリッヒ生命は今年5月、ストレス性の病気による長期入院を保障する終身医療保険を発売。さらに8月には、ネット販売の拡充などを盛り込んだ販売戦略を発表した。日本の保険会社は出遅れた感があるが、チューリッヒにならって、人気が高いネット保険を拡充することや、独自の保険商品を開発することが、激変が予想される市場で生き残る鍵となるのではないか。
先月22日から30日には第19回のTPP会合が開かれ、年内の妥結に向けて各国の動きが加速すると見られる。日本の保険業界も、「日本人のライフスタイルや嗜好の変化を最もつかみやすい」 という地の利を活かした精緻な対応が急がれる。
(ライター 谷垣吉彦)