「第三の矢」見えますか?
~これから当事者になる身から~
◆数値化をゴールにさせない
その他、前頁の成長戦略以外でも、「民間の力を最大限引き出す」 「全員参加・世界で勝てる人材を育てる」 といった点がポイントに挙げられる。前者については、PFI事業も含め、今後3年間で設備投資水準をリーマンショック前の70兆円(2012年度は63兆円) に回復させ、開業率を10%台に高めるための施策が実施される見込みである。ここでは、設備投資減税などにより本当に投資が活発化するのかどうかを財務省の「法人企業統計調査」 や内閣府の 「国民経済計算」 などから冷静にウォッチし、成長戦略の効果を見定める必要があるだろう。
実はこうした戦略はこれまでも幾度となく掲げられてきた。今回も、たとえば保育所の受け入れ人数を2年で10万人増、5年で40万人増、待機児童を5年でゼロにするといった目標が掲げられている。こうした数値化はわかりやすいいっぽうで、実際には期待外れとなってきたことも否めない。目標数値をクリアできるのか、そのためにどんな具体的政策が実行されるのか、政権が仮に変わっても継続されるのかどうか、視野を広げてメディア等で確認していく必要がある。
◆家計に与える影響は?
上記課題点などをクリアした場合に、成長戦略が家計にどんな影響を与えるだろうか。
目論見通り、民間の投資が活性化し、デフレ脱却できた場合には、賃金が上昇する素地は整う。企業の利潤増加⇒賃金上昇⇒消費増加⇒さらなる企業の利潤増加のサイクルが正しいことが、以前にも増して共通理解になっているからだ。となればポイントは、企業が利潤を内部留保に溜め込む傾向や必要性を、政治主導で是正できるかどうかである。GNIが家計収入の意味ではない点についても、同じ文脈で注意すべきだろう。
数値目標 (6) の関連では、以前からの取り組みで待機児童解消の成功例が各地で報告されつつあり、女性の社会進出を拡大させる機運は高まっている。家計所得の増加に直接つながる動きでもあり、これをさらに後押しする施策が具体的に打ち出されるかどうかを見ておくといいだろう。
今回の成長戦略にはないが、依然続けられている事実上の株高・円安誘導政策が家計に及ぼす影響についても触れておきたい。一般的には、物価上昇は賃金上昇よりも先に起きる。そのため、円安により輸入物価が上昇すると、消費面では値上げによるデメリットが生じる。株高については、資産家を中心とした高額消費が伸び、長期的に見て経済全体に底上げ効果を生めば、メリットはある。
◆追加で打ち出される施策に注目を
今回の「戦略」 には、経済界などが要望していた法人税減税は盛り込まれなかった。また、企業の負担を軽減する投資減税に関しても、具体的に示されなかった。つまり、「戦略」 の中味は、実質的にはまだ示されていないとも言えるのである。冒頭の 「もともといきなり当事者にされる人たち」 には甚だ受けない展開だろうが、政治や政局に一定のリテラシーを持つ市民には、むしろ追加で打ち出される施策から 「戦略」 の全体的評価を見定められる展開でもある。
通常であれば年末の税制改正で行う法人税減税を前倒しで実行しようとしている政府の姿勢も、アピールはそれとして、果たしてその内容が長期的に日本の経済にプラスなのか、リスクを伴う投資や起業などにも取り組める環境が整備されるような内容なのか、吟味していくべきだ。
そして、実際に数値目標通りのことが実現できるのかどうか。実現によって停滞した20年を取り戻し、日本が再浮上できるのかどうか。賃金は本当に上がるのか。政権に持続的な努力を求めつつ、壮大な社会実験の行く末を注目しよう。
(ファイナンシャル・プランナー/ライター 伊藤亮太)