プロフィール 1975年、千葉県出身。高校在学中にバンドを結成し音楽活動に没頭。渡米を経て、自身の率いるバンドでメジャーデビュー。音楽活動のかたわら、輸入レコード・CDのカタログ通販ビジネスを展開し、1998年5月、有限会社スタート・トゥデイを設立。通販事業を本格化した。2000年にはオンラインショップ「STM online」をオープンし、スタートトゥデイを株式会社に改組。その後、アパレル商材を取り扱うオンラインセレクトショップ「EPROZE(イープローズ)」を皮切りに次々と個性的なショップをオープン。2001年にバンド活動を休止し、会社経営へ専念。2004年には17店舗までに増えたオンラインショップを統合し、“想像(SOZO)”と“創造(SOZO)”の行き交う街「ZOZOTOWN」をスタート。SNSサービス「ZOZOPEOPLE」、アパレルショップ検索サイト「ZOZONAVI」など各種情報サービスを展開。2010年にはサイトのコンセプトを“街”から“人”に変え、全面リニューアル。2011年6月には中国・香港にソフトバンク株式会社と合弁で「ZOZOTOWN HONGKONG Co.,LIMITED」を設立、9月から中国にて「ZOZOTOWN」の展開を開始した。東証マザーズ上場。
ECサイト隆盛の時代である。今や、日常雑貨から娯楽アイテムまで、ほとんどのものがネットから購入できる時代になった。インターネットビジネスという新大陸において、フロンティアとして注目され続けていたEC(イー・コマース)。だが、実際に成功している事例は決して多くない。そんな中、ZOZOTOWNのように多くのユーザーが支持し、日々成長し続けている企業もある。顧客に認められるECサイトと認められないECサイトの違いはなんなのか? ZOZOTOWN・前澤友作氏によると、そのヒントは、顧客への向き合い方と、社員たちが仕事へ取り組むスタンスにあるという。「自分の好きなことをやり、認めあえる仲間が集う」。その独自のリーダーシップの奥底を探る。
好きなことを仕事にする
ビジネスを続けるうえで、「好きなことをやっているかどうか」 というのが、大きな指標になってくるのではないかと思いますね。おかげさまでZOZOTOWNは多くのユーザーや市場から評価をいただいています。それはおそらく 「私たちが好きなことを、誇れるようにやっている」 という点に集約されてくる。好きなことを仕事にすると、自然にモチベーションも湧き上がってきますし、力も入ってくる。その土台があることで、ZOZOTOWNはここまでやってこれたんです。
よく、「好きなことは仕事にするな」 と言われますよね? 私はそうは思わないんです。「好き」 がないと戦略も考える気がしなくなるし、利益だけのためにやっていてもすぐに飽きてしまう。好きなことを共有できる仲間がいて、好きなことをやっていくという自由さがあるからこそ、「よし、頑張ろう」 となるんですね、私の場合は。
実際に当社の社員は皆ファッションが好きな人たちばかり。一度、全社員にアンケートをとったことがあるんです。「どうしてファッションが好きなの?」 と。その結果、「好き」 の根底にあるものは様々でしたが、ファッションを通じて自己表現をしていたり、コミュニケーションの手段としてファッションを使っていたりと、ファッションを媒介として人とつながりたがる人が多かった。だから、当社では、そういう社員たちとお客様がつながっていくために、「好きなことを仕事にしなさい」 と大手を振って言っているんです。
そもそもの起業のきっかけは、趣味が高じたものだという前澤氏。「メジャーデビューしたアーティスト」 という前歴を持ちながらも、アーティスト活動をやめて会社経営に専念した。もちろんアーティストとして成功しなかったゆえの転身などではない。あくまで自分の 「好き」 を追求したうえだという。
アーティストからの転身
最初はカタログ通販でCDとレコードを販売していました。その後、ネットが普及するようになってからオンラインショップとしてやり始めて、好きだった洋服も取り扱い、それがZOZOTOWNの母体になりました。会社を設立した時は、まだバンド活動をしていまして、3年ほどアーティストと会社経営の二足のわらじを履いていたことになります。でも、結局どっちつかずになってしまうので、バンドはやめて会社に専念することにしたんですよ。
メジャーでやれている環境から自分の意志で転身したというのは不思議に思われるかもしれません。実際に、私たちのバンドはわりと順調にいっていましたから。でも、メジャーのアーティストって、わりとルーティンな動きしかできないんですよ。曲を書いてアルバムを作る、アルバムができたら、それをひっさげてツアーに出る。ツアーが終わったら、また曲をまとめて次のアルバムを作る・・・。その繰り返し。だからどこかで “こなしている感” のようなものを感じてしまうことがあった。もちろん自分たちが好きなことをやっているんですが、「いつまでこの繰り返しが続くんだろう?」 と、半永久的なループ感に疑問を持ってしまったんですね。でも会社ならば、日々従業員という仲間が増え、自分たちがやった結果も数字の変動に表れる。そのダイナミックさに魅力を感じたんです。