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 私は15年程前の平成8年と12年に、自分の関与先の経営者に向けて警告的メッセージを発したことがあります。
 平成8年は 「会社の寿命って何年くらい?―顧問先企業へのメッセージ ― 」と題して、平成12年には 「インフォメーションホームレス(information Homeless)にならない為に」(リンク先PDF参照)と題して、全顧問先にお手紙を差し上げました。
 インフォメーションホームレス(情報難民) 状態になって時代から取り残され、消滅していった中小企業が沢山あります。今読み返してみて、全く同じ気持ちです。中小企業経営者には、変化に対応する姿勢、そしてそのための努力をしてほしいのです。すっかり古い言葉になりましたが、ネチズン(情報市民) になりましょう。 (今風に言うならソーシャル人でしょうか? しかし15年でこれほどの劇的変化が生じてこようとは思いもよりませんでした)
 今のようなクラウドの時代には、冒頭に触れた私の同業者が創業50周年に配布したUSBメモリとて不要の時代となっています。あと数年で USB メモリやCD-ROMそしてハードディスクですら姿を消しているかもしれません。容量無制限の無料オンラインストレージもたくさん出現し、全くありがたく利用させてもらっています。
 21世紀を生き抜くビジネスマンに欠かせない3つのリテラシーは 「パソコン・英語・会計」 であると、週刊 『東洋経済』 のかなり前の記事にありました。私の育った時代は 「読み・書き・そろばん」 が必須科目でした。今から一年半前の2010年6月に本稿VOL5で書いた 「天下りを嫌った兼好法師と、平安時代のリテラシーと現代のリテラシーの違い」 のエッセイがすでに古臭くなっています。
 今は、パソコンに替わり 「スマートフォン」 を使いこなさないと時代遅れとなりつつあります。つまりクラウドを自由自在に使いこなせるかどうかでしょう。
 一年半前にはまだクラウドの世界も普及し始めで、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス) もmixi、GREE、モバゲータウン程度で、実名性を原則とするfacebook等もこれほどに普及していませんでした。
 「人間性の第四革命」 といわれるクラウド革命について私のブログで書いたのが2010年1月ですから、すでに2年経過しています。アイフォンを中心とするスマートフォンの出現がその後の人間の生活様式を変えてしまったのです。スティーブ・ジョブスが人間の生活様式を変えてしまったといっても過言ではありません。
 
 

3、クラウド社会のもたらすもの


イギリスのハートフォードシャー大学哲学科教授のルチアーノ・フロリディという学者が、上述した 「人間性の第四革命」 というテーマで面白いことを言っています。「人間はコンピュータを必要としているが、コンピュータは人間を必要としていない。それどころか、人間は本来、コンピュータの輪の中にいるべきではない。、この輪の中から潔く出て行こうとする人間の初めての試みが、クラウドコンピューティングだ」 というのが彼の言う趣旨です。
 「人間性の第四革命」=第四の波にあっては、情報はサーバーの固まりの 「クラウド」 で共有され、人間の知的活動は 「創造」 活動のみに特化されていきます。つまり知識や情報の多寡は何の価値もなく、創造活動だけが人間の知的活動に特化され、企業も個人も生産性の飛躍的向上は当たり前で、新たな競争社会が到来するとしています。
 フロリディはこれを2年前に言っているのですが、当時の私はまだクラウドの社会のありがたさをそれほど認識しないまま、Gmail、Googleグループ、Googleドキュメント、SKYDRIVE等を使っていました。それが、フロリディの 「人間性の第四革命」 関連書籍に接して考え方が変わり、さらに昨今のアイフォンやアンドロイド系のスマートフォンの機能を見るたびに、スティーブ・ジョブスは人間の生活様式を変えてしまったなと痛感するのです。
 飛脚時代とメール時代のスピードの違いは理解できても、コンピュータとスマートフォンの違いが理解できてない方は、人間性の第四革命の話をしてもピンと来ないかもしれません。飛行機に乗って福岡に行かなくても、新幹線でも行けるわけですから、とにかく行ければいいという人たちは、移動時間の差から得られるメリットに無頓着なわけです。同様に、ITやクラウド等の知識が貧弱で、かつ使いこなせなくとも、生活に支障は全くありません。
 しかしそれらの知識に長けている人種は、何ら価値のないところの 「知識や情報」 は数秒から数分のうちに入手してしまい、数分後にはもう分析・評価活動そして創造活動に入って行きます。知識を得るための 「音声検索」 や、知識や情報を溜め込むためのツールである 「EVERNOTE」 をスマホで使いこなしている人は、そうでない人に比べたら数十倍の時間の節約を可能にしています。
 一方、「私はアナログ人間だからだめなんだ」 と言っている人は、情報や知識を入手する段階で、クラウドを含めたIT技術に長けた人に比較したら数十倍の時間と労力を要しているはずです。この時間の差を、私は広い意味で 「機会損失」 ととらえたいのです。
 つまりデジタルデバイドがもたらす機会格差です。いまやクラウドの世界を 「知る⇔知らない」 は飛脚便とメール便ほどの差がついているのかも知れないのです。ちょっと表現がオーバーになりすぎましたので、宅急便とメール便ぐらいの差にしておきます。
 
 
 50周年記念にいただいたUSBメモリーから、話が飛躍して行ってしまいましたが、これからの世代を担う若い世代は、コンピュータの輪の中にいるべきではなく、この輪の中から潔く出て行ってほしいのです。そしてインフォメーションホームレスにはならないで下さい。 
 
 
 
 

 執筆者プロフィール 

渡辺俊之 Toshiyuki Watanabe

公認会計士・税理士

 経 歴 

早稲田大学商学部卒業後、監査法人に勤務。昭和50年に独立開業し、渡辺公認会計士事務所を設立。昭和59年に「優和公認会計士共同事務所」を設立発起し、平成6年、理事長に就任(その後、優和会計人グループとして発展し、現在70人が所属)。平成16年には、優和公認会計士共同事務所の仲間と共に「税理士法人優和」(事業所は全国5ヶ所)を設立し、理事長に就任。会計・税務業界の指導者的存在として知られている。東証1部、2部上場会社の社外監査役や地方公共団体の包括外部監査人なども歴任し、幅広く活躍している。主な編著書に『一般・公益 社団・財団法人の実務 ―法務・会計・税務―』(新日本法規出版)がある。

 オフィシャルホームページ 

http://www.watanabe-cpa.com/

 
 
 
 

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