最終回となる今回は、東京都から受託した東京セカンドキャリア塾と、東京キャリア・トライアル65を運営するアデコ株式会社のソリューションセールス課統括課長の稲見広之氏にお話をうかがいました。
これからの生き方を学び、見つけるための事業
東京キャリア・トライアル65では、65歳以上の人材を派遣して直接雇用に結びつける、シニアの就業を支援しており、今すぐに働きたいというシニアを対象にしています。シニア人材を企業が受け入れ、その名のとおりトライアルしていただく。そして、働くシニアと受け入れる企業の需要がマッチすれば、トライアル後に直接雇用に切り替えて、就業いただくという事業です。
一方、東京セカンドキャリア塾では仕事に限らず、定年を迎えたシニアが、第二の人生で何をしたいかを見つけてもらう、“アクティブ化”してもらうことを目標にした事業です。シニアセカンドキャリア推進協会理事長の髙平ゆかり氏など、さまざまな講師による講座によって学びを得ていただいています。どちらも65歳以上のシニアの方に、定年後のこれからの生き方や第二の人生を学び、見つけていただくための事業です。
他分野で経験を活かすための気付きを与える
企業側はシニアの受け入れ期間中は派遣費用がかからないという非常に大きなメリットがあります。また、本事業ではホワイトカラー系の職種に限定してマッチングを行っています。シニア世代の求人状況は、警備や清掃、介護など、いわゆるブルーカラー系の仕事が多い一方で、65歳以上の方には事務系の仕事で豊富な経験を積まれてきた方が多くいらっしゃいます。そのため、定年退職後に事務系の仕事を探そうとしても、ブルーカラー系の仕事を紹介されるといったミスマッチが起こっています。
――人材業界では、ホワイトカラー系のシニア人材のマッチングは課題となっているとお聞きしています。
その大きな理由は、大手企業による雇用が見込めないことにあります。というのも、大手はすでに自社内で多くの人材を抱えており、今後、定年が70歳に引き上げられると言われている中で、シニア人材の雇用を増やすことは難しい状況です。そこでこの事業は、人材不足の課題を抱える中小企業を主なターゲットとして提案活動を行っています。少子化の影響もあり10年後、20年後には今まで以上に企業の採用活動は厳しくなっているでしょう。それを見越して、今のうちからシニアを戦力化できるような社内体制をつくりあげていただきたいと考えています。
――シニアがセカンドキャリアとして働くために、重要なことはなんでしょうか。
最も重要なことは、気付きを与えることだと思います。終身雇用が一般的だった時代を過ごしてきたシニア層は、転職経験が少なく自分のスキルが他社でどのように活かせるのかに気付いていない方が多くいます。昨年も、長年CADで建設の設計をしていた方へ、橋梁の設計の仕事を紹介したところ「分野が違うからできない」という回答が返ってきたことがありました。しかし、CADを用いて設計する業務そのものは同じで、多少の学びにより違う分野でもスキルを活かせるわけです。ご自分の経験や専門分野に捉われるのではなく、どのような職種や業種に活かして、何を学べば良いのかという気付きを与えることで可能性が広がるのです。
自分がしたいことを見つけアクティブ化する
さまざまな講座を用意しており、まずは基礎講座からスタートします。基礎講座では「自分自身を知ってもらう」ことを重視し、例えば65歳以上の心と体についての講義を行っています。若い頃に比べると、どうしても体力や記憶力などの能力は低下してしまいます。そうした自分の変化がどのように起きているのかを把握し、しっかりと自己理解を深める。そのうえで未来のビジョンを見据え、「今の自分には何ができるのか、何がしたいのか」を見つける“アクティブ化”を促しています。
――こちらも同じく気付きを与えることを重視しているわけですね。
はい。そのために、人とのつながりも大事にしています。社会人になると、なかなか新たな出会いの機会もなく、コミュニティがつくりにくいという方も多いのではないでしょうか。特に、これまでずっと仕事に没頭してきた方は、仕事以外の繋がりが希薄になりがちです。そこでグループワークの講座を設け、個人的な会話から共通点を見出し、お互いにつながりをつくれるよう促しています。こうした繋がりを醸成し、第1期の受講生の中には、同じ志を持った仲間同士でNGO法人を立ち上げ、活動を行っている方もいらっしゃるんですよ。
自分自身でキャリアを考え、築きあげていく
「もっと早く学びたかった」という声が非常に多くありました。「そうすれば定年後の準備ができたのに」と。社会人でも学生時代にもっと勉強しておけばよかったという方も多いものです。だからこそ、もっと早いタイミングで気付くきっかけが必要ですし、取り組むべきだと考えています。
――そのために、現役世代に対する取り組みとして行うべきことはなんでしょうか。
企業内でキャリア教育を行うことですね。そうすれば、定年後に「この先の人生をどうしよう」といった不安も軽減されると思います。多くの企業ではスキルアップやマネジメント教育などの支援は用意しているものの、キャリアそのものを考え、教育する機会を提供している企業はまだ限られています。企業がキャリア教育をすると、「社員が転職してしまうのではないか」と危惧する声もある。しかし、欧米の例では、自分自身に何が足りないかを気付き、それに向かって努力するという思考が生まれ、企業内の活性化につながると捉えられているのです。企業のキャリア教育がより発展すると、社会人がシニアになった時に、よりアクティブ化できるのではないかと考えています。
――それを踏まえたうえで、今後の展望などもお聞かせください。
やはり、60代より少し若い世代に対しての教育も行っていきたいですね。「キャリア開発があたり前の世の中をつくる」というのが、アデコのビジョンです。一人ひとりが自分のキャリアを見直し、考えてもらう。変化が加速している現在において、シニア層のみならず働くすべての人にとって必要になってくることだと考えています。昭和の時代は、人事部が与えたレールの上でキャリアを積んでいくのが当たり前でした。しかし、そのままでは定年を迎えた時にはレールがなくなってしまう。その時になって進路に悩まないよう、今後は自分自身がキャリアを決めることが一般的になるでしょう。敷かれたレールを歩む人生ではなく、自分で敷いたレールを責任をもって歩む人生が理想的ですよね。社会人の多くの方は、そのことに気付く機会がまだまだ少ないので、今後もその機会を広く提供していきたいですね。
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vol.6 自ら気付きつくりあげるこれからの生き方
(2019.11.22)