1、ペットが死んでしまったら
生物には、草の葉をバッタが食べる→バッタをカマキリが食べる→カマキリを小鳥が食べる→小鳥をタカが食べる・・・ といった生物間のつながりがありますが、犬や猫のペット類のみは、食う・食われるといった捕食関係になっていません。それどころか、飼い主にとっては、ペットはもはや伴侶としての位置づけです。私はかねがね、ペット類に対して憧憬のまなざしを持って見ていました。
私が役員をしている、あるお寺の住職の話です。このお寺は、ペットの供養は基本的に受けないそうです。しかし檀家の奥様からの依頼で、愛犬の一周忌のお経をあげていました。犬に対するお経をあげながら、ふとあることが頭をよぎりました。“あれ?この奥さんのご主人の三回忌、やってないのでは?”――でも、「ご主人の三回忌どうされますか?」 とは、この奥様にどうしても聞けなかったそうです。
ペットの寿命は人間に比べ短いことが多いので、遅かれ早かれペットの “死” に遭遇してしまいます。そして朝も起きられない、他の飼い犬を見ただけでも思い出して泣いてしまうようになる。自分の親の死や夫の死の時は何も感じていなかったのに、ペットが死んだら1ヶ月も寝込んでしまった。――このテーマを書くにあたって、行きつけの飲み屋で取材した実話です。しかし、健康を害するほどに悲嘆に暮れてしまうのは、健全とは言えません。
そのいっぽうで、犬を飼ったおかげで夫婦間のコミュニケーションが増して、冷え切っていた夫婦関係も元に戻った、なんて人もいました。
ということで今月は、ペットの弔いにまつわる課税関係の話です。
2、ペットの法要とお布施の課税問題
大事な、大事なペットですから、病気になったときの費用や避妊のコストも大変です。そして長期旅行ができなくなります。私の友人は3週間の海外長期出張の際には10数万円のペットホテル代を負担していました。個室やハイシーズンは高いんだそうです。都心の自宅付近に住み着いてしまった10数匹の猫の避妊手術代を自腹で負担している方もいます。野良猫の避妊手術は獣医さんがやりたがらないとの話も聞きました。大した報酬にならないとかの理由だったと聞いています。
人間より寿命の短いペットですから、どうしてもペットとの死別は避けられません。ペットロス症候群になってしまう人を見ると、「生き物」 の死って何なのだろうと考えさせられます。そして私は会計士ですから、会計士らしく、生き物の死とその弔いのためのお経を、税務の観点から考えてみます。
「人間に対するお経、犬猫に対するお経、地鎮祭でのお経、これ全て宗教行為である」 と、私が役員をしているお寺の住職は言います。いっぽう、犬猫の死体は産業廃棄物、人間の死体を放置したら、死体遺棄罪。犬猫はある面においては、物であり、またある反面、魂でもある。同じ魂に対するお経をあげても、人間なら、お寺がいただくお経料は法人税法上、非課税。いっぽう、犬猫のお経料には税法上の規定は特にありませんが、宗教行為と見なされない場合は課税されるかもしれません 。
もう少し突っ込んでみると、人間の場合は、お骨の管理は宗教行為としての永代供養にかかる料金で非課税とされていますが、お骨の管理は使用権なのか永代供養なのか? 面妖な問題です。
3、宗教法人のペット専用墓地の敷地に固定資産税は掛かるのか?
お寺の境内地の場合は、「宗教の教義を広め、儀式行事を行い、信者を教化育成する(宗教法人法2)」 という宗教団体の主たる目的のための土地ですから、地方税法では 「宗教法人が専らその本来の用に供する境内地」 に対する固定資産税は非課税としています。ところが、ペット専用墓地の敷地が固定資産税等の課税対象となるか否かを巡って争われた事例が、最近出てきました。
ある宗教法人Aは、別院Bに土地を無償貸与し、別院Bがこれをペット専用墓地等として使用していました。税務当局は 「僧侶による宗教上の儀式の開催も少なく、専ら元飼主がその土地を利用しているので境内地には該当しない」 として、固定資産税の課税をしました。これを不服としたAが裁判に持ち込んだところ、Aの様々な主張も取り入れられたものの、裁判は負けました。が、その際の判決で 「収益事業用地であれば直ちに 『宗教法人が専らその本来の用に供する・・・境内地に該当しない』」 とする税務当局の主張についても、否定されてしまいました。つまり、法制上は 「宗教的色彩の有無と収益事業該当性の有無とは必ずしも排斥し合うものとはいえない」 との考え方が示されたわけです。
いっぽう過去には、東京高裁が宗教法人の主張を容認した類似判決もあるようです。
何をもって宗教行為とするのかは難しい問題ですが、「生き物」 を供養するためにあげるお経が、対象が人間なら宗教行為で、動物なら非宗教行為でいいのか? 人間と同様に、あるいはそれ以上に密接な関係でつながり、伴侶動物(コンパニオンアニマル) となっているペットにお経を上げるという行為と、関係が冷め切ってしまい、伴侶動物ではなくなってしまった家族に上げるお経と、どう違うのでしょうか?
先月まで、公会計という固い話が続きましたので、今月は見近な話題を取り上げました。そしていよいよ夏です。私は麺類が好きです。夏と言えば冷やし中華、冷やし中華って、なぜ普通のラーメンより高いのだろう? 来月は、そんな誰もが抱く疑問から、会計にまつわるあれやこれやの問題を取り上げてみます。
プロフィール
渡辺俊之 Toshiyuki Watanabe
公認会計士・税理士
経 歴
早稲田大学商学部卒業後、監査法人に勤務。昭和50年に独立開業し、渡辺公認会計士事務所を設立。昭和59年に「優和公認会計士共同事務所」を設立発起し、平成6年、理事長に就任(その後、優和会計人グループとして発展し、現在70人が所属)。平成16年には、優和公認会計士共同事務所の仲間と共に「税理士法人優和」(事業所は全国5ヶ所)を設立し、理事長に就任。会計・税務業界の指導者的存在として知られている。東証1部、2部上場会社の社外監査役や地方公共団体の包括外部監査人なども歴任し、幅広く活躍している。主な編著書に、加除式三分冊『一般・公益 社団・財団法人の実務 ―法務・会計・税務―』(新日本法規出版)がある。
オフィシャルホームページ
http://www.watanabe-cpa.com/