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「積極性」は天然か?

 
 日本人は、シャイな人が多くて、会議の席などで積極的に発言ができず、受身になってしまうことを悩む人は少なくない。
 以前であれば、この手の積極性がなくても、与えられた仕事をきちんとこなしていれば、それなりに評価されたし、少なくともクビになることはなかった。ところが、今のご時世、この手の積極性のない人間が、「仕事のできない人間」 とみなされかねない。アベノミクスで経済を再建する政策の中には、解雇規制を緩和する法案も含まれているというから、早めに積極性を身につけて、できる人間と思われたい心理は納得できるものだ。
 
 私は積極性というのは、トレーニングで身につけることができるものだと信じている。
 実際、アメリカ人だって、それほど自己主張の強くないシャイな人間は珍しくないが、そういう人に対して、アサーティブトレーニングといって、自己主張ができるようにしていく訓練が積極的に行われている。今では、ブレスト(ブレーンストーミング) という言葉も当たり前に用いられているが、これにしても、会議で意見が言えない人が少なくないので、誰でも批判を受けることなく、アイデアは多いほうがいいということを前提にして、言いたいことを誰にでも言わせようと考えられたイギリス発祥の手法である。
 
 アメリカのような国でも、むしろ秀才のほうが、バカに見られることを恐れて慎重になることが少なくないという。しかし、私の留学先もそうだったが、質問や発言の質より(実際、宿題で出された文献に書いてある質問を自分の質問であるかのように繰り返す不届き者の若い医師も珍しくなかった)、そういう質問や発言をたくさんするほど評価されるシステムによって、誰もが積極的に発言するようになるのである。
 
 

阻害要因の2タイプと対処法

 
 さて、人間が受身になったり、積極的になれない理由というと、「人全般が怖いので、それを避けたい」 というような社会不安障害(これも程度問題だが) の人を除くと、やはり、「自分の発言が、レベルが低いと思われ、それによって周囲の評価を落としてしまう」 という不安と、あるいは、仮にいい発言をしたとしても、場の空気を壊したり、別の人の批判をしているように思われて、嫌われたり、嫌な奴だと思われることへの不安だろう。だとすると、それぞれの対処法を考えるしかない。
 
 前者への対処法は、準備とリハーサルである。
 アメリカの名大統領の一人に目されるケネディは、演説の名手と思われているが、実は論文を書くのは得意だが、人前でしゃべるのが苦手という学究肌の人間だった。
 しかし、それを自覚している彼は、信頼できるスピーチライターをつけ、そのライターの書いた原稿を何度も読む練習をして、演説に臨み、周囲に感動を与えた。今では、ほとんどの大統領候補が、この手のスピーチライターをつけ、数十人の聴衆を実際に用意して、演説のリハーサルをするという。
 会議での発言が苦手と思うのなら、そのぶん、下準備をして、何を言うかをきちんと原稿にまとめたり、どんなことを聞かれたらどんなふうに応えるかの想定問答を用意するくらいのことは必須だ。可能であれば、知り合いや友達などに頼んで、リハーサルの際の聴衆になってもらい、表現がまずいとか、話が面白くない点などを指摘してもらって修正できるといい。そういう下準備で、かなり自信がついてくる。当初はそれでも、なかなか積極的になれないかもしれないが、場数を踏んでいくと会議が怖くなくなるはずだ。
 
 もう一つの、相手に嫌われる、不快感を与えることについてだが、人間というものは会議のような公的な場で人を嫌いになることはあまりないということは知っておいていい。
 ただし、地雷はある。
 現代精神分析の第一人者のハインツ・コフートは、人間の怒りの源泉は、基本的には、自己愛を傷つけられることだと主張した。会議では、相手の顔を潰すようなことをしなければ、相手を怒らせることはないし、少なくとも、恨まれることはない。逆に、相手の顔を潰すようなことをすれば、後々、嫌われるし、恨まれる。相手の顔を潰していないかときちんとチェックして、それさえしなければ、多少自己主張が強くても問題ないものだ。
 
 
 ビジネスパーソンたる者、人に嫌われることを必要以上に恐れるより、人間心理の基本の 「キ」 ぐらいはマスターして、パフォーマンス向上につなげるよう励むべし。
 
 
 
 
 心理学で仕事に強くなる ~和田秀樹のビジネス脳コトハジメ~
vol.6 受身の姿勢からどう脱却するか?

 執筆者プロフィール  

和田秀樹 Hideki Wada

臨床心理学者

 経 歴  

1960年大阪市生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部付属病院にて研修、国立水戸病院神経内科および救命救急センターレジデント、東京大学医学部付属病院精神神経科助手、アメリカ、カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科を経て、国際医療福祉大学大学院教授(臨床心理学専攻)。2007年、劇映画初監督作品『受験のシンデレラ』でモナコ国際映画祭最優秀作品賞受賞。2012年、第二回作品『「わたし」の人生』公開。主な著書に『マザコン男は買いである』(祥伝社新書)、『「あれこれ考えて動けない」をやめる9つの習慣』(大和書房)、『人生の軌道修正』(新潮新書)、『定年後の勉強法』(ちくま新書)、『痛快!心理学 入門編、実践編』(集英社文庫)、『心と向き合う 臨床心理学』(朝日新聞社)、『最強の子育て思考法』(創英社/三省堂書店)、『大人のための勉強法』(PHP新書)、『自己愛の構造』(講談社選書メチエ)、『悩み方の作法』『脳科学より心理学』(ディスカバー21携書)など多数。

 オフィシャルホームページ 

http://www.hidekiwada.com

 
 
 
 

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