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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

日本の観光産業に変化をもたらす
星野リゾートのマネジメント戦略

 
 

フラットな議論から導かれた結論は、いわば 「生きた結論」 だ。コンセプトも、それを表す言葉も、トップダウン方式からは生きたものが生まれてこない。星野リゾートの企業理念を表すものに 「日本の観光をヤバくする」 というコピーがあるが、一般的な企業で 「ヤバい」 などという表現を使うところはまずないだろう。しかし星野氏は、「生きた言葉」 として、このキーワードをミッションに取り入れた。

 
 

少々 「ヤバい」 言葉で語られるミッション

 
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「日本の観光をヤバくする」 というコピーは、私たちにとってはミッションという位置づけなんです。星野リゾートの使命は何かと考えたとき、「日本の観光をヤバくする」 というミッションがあって、そのために 「リゾート経営の達人になる」 というビジョンがあって、そこで星野リゾートの価値観が見い出すことができます。 私はこうした企業のあり方をミッション、ビジョン、バリューと分けて呼んでいます。ミッションは一番最初。会社の存在意義であったり、会社が社会に対して達成したいことを唱える部分です。
 星野リゾートも、初めは 「日本の観光の競争力を高めて地域経済に貢献しよう云々」 といったコピーを考えていました。しかし、書いていて 「企業のミッションって、誰に説明するものだろう?」 と、ふと思いました。ミッションって、お客様にフロントでご説明するものではありませんし、金融機関にプレゼンするわけでもありませんし、圧倒的にリクルーティングに使う言葉ですよね。学生や、これから星野リゾートに就職してもらえるかもしれない人たちに対して、星野リゾートはどういうミッションを持っている企業なのかを説明するためのものなんです。
 そこでリクルーティング担当が言うには、「日本の観光産業に貢献しよう」 なんてのは若い人に受けない、こんなのはジジくさくてダメだ、と(笑)。 では、中身は変えず、彼らにも伝わるようにシンプルに言うとどうなるか? そこで出てきたのが、「日本の観光をヤバくする」 という表現でした。
 
 この表現が出てきたことには背景があります。星野リゾートでは2005年から福島県の 「アルツ磐梯」 と北海道の 「アルファリゾート・トマム」 の冬リゾートを運営していて、スキーやスノーボードの大会のスポンサーになる機会が増えていました。それでプロ・ボーダーともたくさん付き合うようになったのですが、彼らは 「ヤバい」 という表現をいい意味で使うんです。今は一般の若者たちも 「ヤバい」 という言葉を 「VERY GOOD」 の意味で言うでしょう? その感覚は私たちが持ち得ないものでした。英語ではCOOL。日本語では 「ヤバい」。程度を超えたすごさのことを彼らはそう呼んでいる。それを聞いて、「ああ、これは人に響いていくな」 と思いました。
 
 


商品コンセプトも「ヤバめ」に作る?

 
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 施設のコンセプトワークも同じです。星野リゾートの各施設のコンセプトワークには共通の要素があります。ひとつは、お客様を絞り込むこと。マーケティングのうえでニッチ戦略をとるということです。ニッチ戦略というのは、顧客数の単純な最大化を狙うのではなく、「こういう顧客ならば、うちにいらしていただければ120%満足していただけるはず」 というお客様に訴求して効果の最大化を狙う戦略ですよね。
 さらに星野リゾートでは、運営の観点から、それらのお客様にリピートしていただけることを重視します。そのために、来ていただきたい顧客の属性に明確に訴えるコンセプトを作ることが、まず重要です。
 最近星野リゾートが運営に入った三重県の 「タラサ志摩ホテル&リゾート」 の例で言いましょう。タラソテラピーのサービスを提供しているんですが、テラピーって、どうしても 「リラクゼーション」 「癒し」 のイメージが先行します。それも間違いではないですが、あまりに平凡すぎます。お客様への訴求効果は薄い。そこで、現地の社員たちがひねり出したコンセプトが、「海エナジーをチャージする」 でした。
「休んでいただこう」 「ゆっくりしていただこう」 ではなくて、「がっつりエネルギーを補給していただこう」 と。これ、リゾートとしてはありえないくらいアクティブでしょう? ヤバいですよね(笑)。 それが彼らの想いであり、積極的にリゾートを楽しみたいお客様を満足させられる施設としてのバリューを、彼らが自分たちに見出しているということなんです。だから商品コンセプトに前進感が漂ってくる。
 しかも、これらのコンセプトワークは私がトップダウンで進めさせたものではありません。ここが最大のポイントです。コンセプトを実践するのは私やグループ本部ではなく、実際にお客様と接するスタッフたちですから。
 共感度がダメだと本当の力が湧いてこないので、しっかりコンセプトワークができたということは、現場が星野リゾートの文化とミッションにしっかり共感してくれているのでしょう。その中で苦心して作られたコンセプトは、やっぱり生きてますよね。

 

 

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