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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

 
俳優になると決意したもののなかなか芽が出ず、30代まで苦労が続いた宇梶さん。そんな宇梶さんを支えてくれた、4人の恩人がいるという。「いただいた言葉は、どれも耳に痛いものばかりだった」と笑う宇梶さんに、当時の様子を振り返ってもらった。
 
 

美しいものだけを見続ける

 
俳優の世界に飛び込んでからは、その日、そのときのことに夢中で、先のことまでは考えていませんでした。当時の僕がそれだけ“今”のことに夢中になれたのは、付き人をさせていただいた錦野旦さんと菅原文太さん、それにご縁があってお会いした美輪明宏さんと渡辺えりさんのおかげです。なんせ、あの頃の僕を面と向って叱ってくれたのはこの方々だけでしたから。僕は身長が190cm近くありますし、目付きもギラついている。それに少年院にまで行っていて、経歴はバッチリです(笑)。そりゃあ、叱るほうも嫌ですよね。それでも、たかが10代の子どもだったんです。心も経験も、考え方もまだまだ子ども。4人は僕の容姿や経歴ではなく、育ちきっていない心を見てくれました。
 
美輪さんに教えていただいたことで印象に残っているのが、美しいものを見続けるということ。「あなたはこれまで人の裏切りとか、逃げばかりを見続けてきたから、闇に心を支配されている」とおっしゃいまして。「そういうものは見ずに、美しい景色や音楽、絵や詩など、とにかく美しいものに触れ続ける。そうすれば自分が見ているもの以外が、美しくないものだとわかるから、わざわざ目を向けなくていい」と教えてくださったんですよ。
 
“今”目の前にある目標や課題に夢中って取り組む姿勢は、現在も変わっていません。これまでいろんな映画やドラマ、舞台に出演させてもらっていますけど、それを振り返ることはほとんどないですね。ただ、これだけ長く俳優業をやらせていただくと、出演した作品の再放送がたまにありまして。そういうのを見ると、過去の作品を通じて、僕の存在というものを表現してくれているようにも感じます。
 
それに、再放送などを見ると、自分に“垢”がついていないか再確認する良い機会になりますね。僕は若い頃、とにかく大人が大嫌いだった。でも、もう50代になって、嫌いだった大人の領域に完璧に入っているわけですよ。それでも、当時、立場や権力を利用して僕を全否定した大人に対する悔しさ、怒りというのは、なかなか消えないものです。だから「あの大人たちと同じになってたまるか」という心構えを持ち、自分がそうなっていないか、垢がついていないか確かめる機会を大切にしています。
 
 
俳優を目指し奮闘していた時代について、「前に進みたいという気持ちと、逃げたいという気持ちが両方あったからこそ、なんとか俳優を続けられた」と語る宇梶さん。その真意についてうかがった。

 

逃げながらも向って行った

 
30歳を過ぎた頃に、僕の活動を応援してくれる仲間から「普通なら夢を諦めてしまう。本当にすごい」と言ってもらったことがあるんです。俳優として様々なお仕事をいただくようになってからは、なおさら「すごい」と言ってもらえる機会が増えました。でも、何もすごいことなんてない。他の人のために努力して頑張っているなら、それは誇れることです。でも、僕は自分のために頑張っただけなんですよ。
 
それに、僕には「逃げたい」という気持ちもありました。過去に戻りたくない、あんな辛い心の闇を抱えたくないという気持ちから、必死に俳優にしがみついていたんですよ。ただ、それでも逃げる先は、俳優に続く道を選んでいました。逃げた方向と、進みたいと思う方向が同じだったんです。
 
きっと、過去から逃げたいという気持ちだけで俳優を目指していたら、すぐに挫折していたと思います。逆に、前向きな気持ちだけで進んでいても、大きな壁が立ちはだかったときに、必死に越えようとすることはできなかった。今振り返ってみると、「逃げたい」と「前に進みたい」という相反する気持ちがあったからこそ、なんとか続けてこられたのかもしれません。
 
実際にいろんな役を演じるようになって心がけているのは、その役を見つめること。俳優の仕事って、台本の中に書かれている役に命を吹き込むことだと思うんですよ。だから、その役の心理の奥の奥の奥の奥まで見つめることが大切だと考えています。「こういう役は自分に合わないかも」なんて思ったことはありません。仕事ってそういうものですからね。嫌とか苦手とか言っている場合じゃない。どの役に対しても同じように取り組んで、同じように見つめるべきなんです。
 
 
 
 
 

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