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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

氷上のスピードスターが極めた
勝ちにいくための自分掌握術

 
 

 「ここだ」と思う瞬間に、躊躇なく体が動いて、前の選手を抜いたり、インコースに切れ込んでいけると、そのレースは圧倒的に有利に運べるようになります。しかし、チャンスだとわかっていても体が動かないことがあります。そういうときは、まず勝てませんね。
 躊躇してしまう理由はいくつかあるんです。身体が疲れていたりとか、抜いたとしても最後まで先頭をキープできるか不安だったりとか。「もし接触して失格になったらどうしよう?」とマイナスのイメージが浮かんでしまうこともありますね。そういうときに無理に行こうとすると本当にイメージどおりのネガティブな結果になってしまうので、「迷わず行く」ということが何より重要なんだと思っています。
 行くときは、思い切っていく。思ったら、即行動する。実はこれって、ビジネスにおいても重要なことなんじゃないかなと思うんです。
 
 
 
思ったら即行動――。これは彼女が子供の頃から両親に言われ続けてきたことだった。同じスピードスケートの選手であり、コーチでもあった父親は、なんにでも躊躇せず取り組ませるという方針で、娘・郁恵を育てた。競技に関することはもちろん、人生すべてにおいての教訓として。
 
 

「思ったら即行動」の論理

 
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 両親はなんにでも挑戦させてくれましたし、それを奨励していました。自分が気になることがあればすぐに行動に移すように言われ続けてきたんです。母なんかは、「恋愛もどんどん行け、自分から行け!」って(笑)。
 その哲学はずっと私の中で培われてきましたから、氷の上を離れても、「即行動」は変わりませんでしたね。「引退後はスポーツキャスターとして活動する」という目標が現役時代からありましたので、引退即行動。海外で大会が終わった日に引退会見をして、帰国した翌日には事務所まわりをしていました。直接、各事務所の社長さんにアポイントをとって、「こういう気持ちがあってスポーツキャスターをやりたいと思っているので、ぜひ話を聞いてください!」って。皆さんに「あれ? 勅使川原さん、引退会見してたの、昨日でしたよね?」なんて驚かれましたけど(笑)。
 だから今でも、自分にとってチャンスとなるチャレンジに対しては躊躇せず、即答で決めます。仕事でフルマラソンやトライアスロンに出場するお話があったとして、常識的には「かなりの準備が必要で、大変かもしれない」と躊躇するかもしれません。でも私は「はい、やります」と常に即答。どんなに辛くても、ハードな練習や経験を重ねれば、やっただけのいい結果が必ず出るということが体験的にわかっていますし、チャレンジできる場があるということは、常に自分の可能性を切り開くチャンスがあるということですから。
 
 
 
チャンスが目の前にある。そのチャンスを生かす。目の前にある山に挑めるのは、着実に準備をしている者だけだ。スポーツでもビジネスでも、日頃からの準備を怠っていれば、いかなチャンスにも挑めないし、ましてや結果を出すことなどはできないだろう。勅使川原氏がアスリート時代を含めて大事にしている「準備」。それは、自らの環境を整えることだった。
 
 

勝てる人が持つ二つの財産

 
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 何ごとにも強い人は、必ず二つの財産を持っていると思うんです。一つ目は「自分がやるべきこと」――つまり自分の目標ですね。アスリートであれば、自分が最大の目標としている大会に向けて、ロングスパンの目標を立てます。最大目標からの逆算で、今日は何をする、明日は何をするということをしっかりと決め込んでトレーニングをしていきます。それをせず、毎日の思いつきで行動していると、結果には恵まれないでしょう。
 もっとも、きちんと計画立てて行動しても、不調になったり、自分を見失うようなことだってあります。そこで大事なのが二つ目の財産。それは「人」です。
 ライバルの話を聞くとよくないので、ここでの「人」は、基本的には自分とは違う分野で活躍されている方ですね。私であればスピードスケート以外の競技をしている人の話を聞いたりしていました。すると、自分でも気付かなかった思いがけない答えが返ってくることがあるんです。たとえば「最近疲れがとれないんだよね」と話すと、「疲れているんなら、休めばいいじゃん」とか(笑)。 もうシンプルすぎるぐらいの答えなんですけど、その通りで。そうやって自分を取り戻していける第三者に恵まれることで、実際に気持ちが楽になることもしょっちゅうあるんですね。

 長期的な目標の中で自分を管理しつつ、瞬間的な勝負どころも決して見逃さないように、自分のメンタルとフィジカルを整えていくこと。競技なら勝敗を、ビジネスなら結果を分けるのは、そのバランス感覚だと考えています。
 
 
 

(インタビュー・文 新田哲嗣 / 写真 Nori)

 
 
 
 

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