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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

外食産業に変異をもたらした
風雲児の価値創造テクニック

 
 
 
松村氏の根底に流れるもの。それは良い意味での違和感であり、ズレであり、それが店の売りになっていくという。食べておいしいのは当たり前。「外食をしてもらうための基本」 に対し 「外食をしてもらうための動機」 がさらに必要であると氏は語った。
  
 

とことん「尖り方」にこだわっていく

 
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 お客様にどう動機づけをするか。その発想の前に固めるべき土台がコンセプトです。コンセプトは尖っていればいるほど、他を寄せ付けないものになる。「不思議の国のアリス」 をモチーフにした店を作ってみたり、私が高知県出身なので坂本龍馬をモチーフにした店を作ってみたり。それだけでなく、たとえば土佐料理を出すならば、鰹のタタキを出すときに、高知の漁港で漁師たちが作っている作り方・食べ方をそっくりそのまま再現する。藁火で炙り、スライスしたニンニクをたっぷりかけて食べる。東京では匂いがきついカツオとニンニクの組み合わせは敬遠されがちで、カツオの匂いをショウガで消したりするようなアレンジを施されることが多いのですが、あえてそれをしない。なぜならば、「本物の鰹のタタキ」 という尖り方を失いたくないからです。
 味付けにしても、店舗イメージにしても、「尖る」 ということにこだわりはじめたのは、実は私自身が経験したある出来事がベースになっているんです。以前、アメリカのとあるお化け屋敷に行ったことがありました。『13日の金曜日』 というホラー映画の作品があるでしょう? チェーンソーを持った殺人鬼が追い掛け回すという、プレッシャー&パニック映画です。そのお化け屋敷は、まさにその世界観を投影していて、中に入ると遠くで殺人鬼がチェーンソーを回していて、本当に追いかけるわけです。これがまた、チャチな作り物ではなくて、かなり怖いんですよ。「4名以上で入るように」 と入場条件があるくらいですから。なぜって? 4名以下で入ると、怖すぎて耐えられないからです(笑)。 そのとき思いましたね。「とことん異世界を追求したら、これだけ強烈なインパクトを残すことができるんだ。これは店舗づくりに使える発想だ」 と。 
 
 
自分のレストランに必要なものは非日常感。「おいしい」 に加えて、非日常を具現化したい。いつもと違う時間を体現したい。そのことに気づいた松村氏は、さっそく店舗づくりにその経験を生かしていった。ドラキュラの館に迷い込んだような錯覚を受ける 「VAMPIRE CAFE」、「不思議の国のアリス」 と同じ世界にトリップできる 「迷宮の国のアリス」 など、外食の会社にありながら、まるで作家のような発想を広げていく。松村氏は、徹底的にアイデアにこだわった店舗展開を貫くようになった。
 
 

アイデアを出す際の 松村流 “3つのルール”

 
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上場企業となってからも、自由なアイデアを尊重する姿勢に変わりはない。
「外食アワード2007」も受賞した(写真一番奥の表彰状)
 私は社員たちに 「店舗開発のためのアイデアは自由だ」 といつも言っているんです。3つのルールを外さない限りは自由。そのルールというのは、「お客さんに喜んでもらう」 「コンセプトをはずさない」 「予算に基づいた適正な利益をあげる」 というものです。これが守られていれば、好きな食材を調達して、好きな味付けをして、好きなお皿を買って、好きな盛り付けをして、好きな値段とネーミングをつけて、好きな演出をして、好きな音楽をかけて、好きな営業時間で営業しなさい、と。もう何をやってもいいわけですよね(笑)。 だから弊社の社員は完全に裁量性です。
 自由さの一例をあげるなら、子会社であるゴールデンマジック社の例を出すのがいいでしょう。そこの社長は、最初弊社にアルバイトとして入りました。次第に社員となり、店長となり、部長となり、今は会社を任せて、1億円の資本金とともに 「5年間で100店舗・売上100億円の会社を作りなさい」 とミッションを与えています。ただそれだけ。どんな店を作れとか、これだけはしてはいけないとか、彼のアイデアを左右するような私からの指示は一切ありません。
 そこで彼が何をやっているか。これを聞くと、もう笑っちゃいますよ(笑)。 たとえば、かつて1号店として「CHAGE and勇太」 という店名を考えたんです(実際には 「三丁目の勇太」 として出店)。勇太というのは、ゴールデンマジック社長の山本勇太のこと。もうわかるでしょう? 彼はCHAGE and ASKAさんの大ファンだったから、この店をやりたいと思った。実際、「CHAGE and ASKAルーム」 というVIPルームを作ってしまいました。しかもその部屋に他のお客さんが入るときは 「もし、今日、ご本人がいらっしゃったら、すみませんが部屋を空けていただきます」 と、いちいち断りを入れるんです。来るわけないんですけどね(笑)。 で、歌のタイトルをつけた料理を作ったり、ファンイベントをやってみたりと、もう完全に趣味の世界じゃないですか。でも、それが口コミで評判になってお客様がお越しになるわけで、店としては何ら問題はない。利益率が問題ないならそこまで自由にやらせますね。だって、そのほうが、良いアイデアをどんどん出す気になるじゃないですか。
 
 
 
現在100店舗近い出店を誇るダイヤモンドダイニング。すべての店舗で業態が異なるならば、100近いアイデアを形にしてきたことになる。これだけでも相当な実績なのだが、何よりすごいのはそれが消費者にウケているという事実だ。もちろんウケていなければ当社の発展はなかったわけだが、それにしても、どうすればそれだけのアイデアを継続して出せるのか?
 
 

インプットがあるからアウトプットがある

 
 アイデアを生み出すには、やはりその素となる部分がないと始まりません。「クリエイティブは目から入る」 というのが私の持論ですから、雑誌や映画、ファッション誌など、飲食に関係ないものでも、どんどん情報として取り入れるようにしています。そこから何を引き出すかは、個人のセンスになってくるでしょう。でも、インプットがしっかりあれば、それに比例してアウトプットも出てくるはずなんですよ。その証拠に、毎年欠かさず新入社員たちに新店舗のプランを出させるのですが、一人一店舗はなかなか秀逸なものを出してくるんですね。思い入れがあるものはだれもが一つぐらい必ず持っているはずだし、新入社員でも、二十数年生きて培ってきたインプットが生かせるわけです。

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▲松村氏自ら “インプットのたまもの” と語る店舗  「ベルサイユの豚」
 ちなみに余談ですが、弊社の経営する店舗に 「ベルサイユの豚」 という店があります。これなどはまさにインプットのたまもの(笑)。 私の娘がアニメ 『ベルサイユのばら』 の大ファンで、親子でテレビを見ることが多かったわけです。その映像が頭の中に残っていて、たまたま洋食店舗のことを考えていると、ふと浮かんできた。「洋食か。最近海外モノに何か触れたっけな? そういえば、娘と 『ベルサイユのばら』 を視たな。ベルサイユのばら、ベルサイユのばら、ベルサイユのばら、ベルサイユのばら・・・・・・ ベルサイユの豚?」 と(笑)。 唐突と言えば唐突です。当時は狂牛病のあおりで豚料理がブームになっていたから、そこから閃いたと後付けでは言えますが、何を考えるでもなくパッと頭に浮かんだ。で、会議でそれを発表すると、当然皆の頭の上に 「?」  が浮かんでいるわけです。店に入った瞬間にマリーアントワネットの油絵が豚を抱いてお出迎えする、「ベルサイユの豚」。お客様にはとことんウケましたね。
 ただし、なんでもかんでもこのノリが通用するかというとそうではない。いいアイデアもあれば悪いアイデアもある。その違いはたったの一つだけ。外食産業で言えば、「立地にあったアイデアかどうか」 です。ある店を出そうとして、新橋ではOKだけど銀座では難しいというケースだってあるわけです。「天の時、地の利、人の和」 というでしょう? 地の利を生かせるアイデアでなければ、やっぱり不利な条件のスタートになりますよね。
 
 
 
 
 

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