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経営者インタビューEXECUTIVE INTERVIEW

人の心に寄り添い
感動を呼ぶデザイン

 

心を掴むためにはお茶屋の主人にもなりきる

 
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ソニー AIBO第三世代
川﨑 では、「やってみなはれ」の精神で手がけられた御社のお仕事をご紹介していただけますか。
 
小林 代表的な広告は、トヨタの初代「プリウス手塚治虫篇」やソニーの「アイボ」、資生堂の「プラウディア」、日本コカ・コーラの「綾鷹」、「JRスキースキー」などです。
 
川﨑 おぉ、どれも有名なものばかりだ! 小林さんの仕事ぶりが信頼されているからこそ、そうした大きな仕事を任されているんでしょうね。ところで、どの作品にも共通して、人のぬくもりが感じられますね。言い換えると、デジタルではないアナログ的な雰囲気というか・・・。
 
小林 敢えてそのようにデザインしています。というのも、デジタルなデザインはある意味、人の心に届きにくいと思うからです。消費者の心に触れないと、商品を買っていただけないどころか、手にも取ってもらえません。だからこそ、心を和ませるようなアナログ要素を入れているのです。こちらの「サントリー緑茶 夏篇」のポスターは着物のように染色して複写した作品です。アナログさがあるでしょう?
 
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サントリー緑茶 夏篇
川﨑 本当だ。人の手が加わった感じが消費者にも伝わりそうです。こういうデザインの広告でPRした商品が、普遍的な人気を獲得して売れていくんですね。それに小林さんの作品はシンプルかつインパクトがあるなぁ。
 
小林 インパクトを出すために、ともかくシンプルなデザインにすることを心がけているんです。様々なものや情報が溢れている世の中では、デザインの中に情報を入れすぎて、何を伝えたいのか迷っているような表現をしていては、訴える力が弱くなってしまう。ですから、まずは伝えたいことを把握し、次に余分なものはどんどんそぎ落とすんです。さらに、我々は仕事を進める際、特別なルーティーンを設けます。それは、役者さんと同じように役づくりをすることなんです。
 
川﨑 えっ、どういうことだろう? お仕事をする際、ご自身が役づくりをなされると?
 
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資生堂 プラウディア
小林 はい。スタッフも含め、全員が役づくりをします。例えば「綾鷹」の時はお忍びで京都府宇治市にあるお茶の博物館、上林記念館を訪問してあらゆる書物に目を通しました。不足があれば、国会図書館に行って資料を調べます。さらに気分を高めるため、制作期間内は事務所内に留まらず通勤や打ち合わせなどの移動中ずーっと和モダンの音楽を流し、ちょっとシャレたお茶屋の主人になりきりました。
 また、ハワイをテーマにした案件では、ハワイの民族音楽を四六時中流します。そうやって脳を徹底的に刺激させ、洗脳させるんです。その結果、商品を購入して使用する立場の人に限りなく近付けますので、そこで生まれた表現は、確実に人の心を動かします。
 
川﨑 そこまでするなんて、驚いたなぁ。その徹底ぶりは、役者も顔負けですね(笑)。
 
小林 人の心を動かすには、単なる方法論ではなく、人の心に自分を重ね合わせる努力が必要だと思うんです。多くの人を感動させた映画『レインマン』で主演したダスティン・ホフマンは、役づくりのために自閉症の人と何ヶ月も共に過ごし、その人の心の動きまで修得し、あの演技が生まれたそうです。この姿勢を、私も見習っているんですよ。