B+ 仕事を楽しむためのWebマガジン

トピックスTOPICS

 

俺の借金全部でなんぼや? ― 複式簿記って素晴らしい ―その6

 
 
 足掛け5回にわたって綴ってきた、公認会計士としての私の生涯のテーマ 「複式簿記って素晴らしい」 も、今回でひとまずは締めくくりです。前回は 「公会計にも日々の継続的取引の記帳の段階から複式簿記を導入する必要がある。そして財務書類の作成には総務省方式改訂モデルではダメだ」 という結論を導きました。以下、流れを追いやすいように見出しを前回から持ち越して、8、9、10として書き進めます。
 
 

8、予算と会計の関係 ―公会計から溢れ出る矛盾の解決策は?―

 
 現在の日本で、国つまり公会計と予算の関係は、どのようになっているでしょうか。企業会計の立場からすれば、会計=決算ですから、管理会計の世界は別として、財務会計に予算の概念は直接的には入ってきません。ところが公会計の場合には、会計とは決算のみならず予算も含む、すなわち事後的な 「決算」 だけでなく、事前の資源配分に関する意思決定そのものである 「予算」 も、その対象とすべきであるとの考え方です。この点について、参議院議員の桜内文城氏はその著書 『公会計革命』(講談社現代新書) の中でこう書いています。「 『国家のガバナンスレベルの意思決定として、大枠としての資源の調達と配分に関する意思決定をおこなうこと』 が予算編成とするならば、予算の持つ法的な拘束力すなわち『予算の法規範性』が公会計における重要な特性になります」。
 
 さて、財政学的視点からみた予算と、会計の視点からみた予算に違いがあるのは当然として、私が問題意識として常に頭の中に持っているのが、予算準拠主義から派生する弊害の問題です。
 これとは別に、地方公共団体の保有する資産更新問題もその一つ。予算の持つ法規範性ゆえに、逆に様々な問題点が内在し、政府機能と財政の複雑化とも相まって予算準拠主義の矛盾点やら特別会計の問題点、出納整理期間を利用した粉飾決算の問題等が顕在化し、マスコミを賑わすことになっています。まだまだ浅学ゆえに 「結局どうすれば良いか」 の結論はわかりませんが、公会計に複式簿記を導入させることもその解決策の一つであると私は考えています。
 
 

9、地方公共団体の設備更新問題

 
 公会計に複式簿記をなぜ導入しなければならないかについて、今までは複式簿記の機能的優位性から説いてきましたが、これでは具体性がなく、まだピンとこない方がたくさんいるはずです。お役人や学者の方からは、「現金主義の弊害があるなら、それを補う方法でカバーすれば、単式簿記でもいいのでは?」 といった問いかけさえある始末です。
 現金主義の最大の欠陥は何だとお考えですか? 固定資産会計を支えている 「減価償却」 制度という設備更新概念が忘れ去られていることです。
 市営住宅や県営住宅に住む住民は、減価償却費を設備や資産を使用する対価と考えていません。まあ、これは当然として、資産を管理する側のお役所の職員も、減価償却費を将来のコストとしてとらえる意識が不十分です。最近はなんとなく理解しはじめていますが、まだまだ認識不足です。彼らの辞書にはない概念ですから仕方ないのかもしれませんし、あるいは先に述べた 「予算の法規範性」 の外の問題なのかもしれません。やっかいなのは、職員にとどまらず、政治家・地方公共団体の組長・管理者も、減価償却費を将来の設備更新の準備と捉えていないことです。というより、そのようなデータがないのですから、わからないのも当然なのです。
 
 ここで、驚くべきデータをご紹介します。私も参加している 「公会計改革に協力する会計人の会」 の浅田隆治公認会計士の 「新地方公会計の成果、その活用へ」 という研修で利用された資料です。更新資産準備率という考えをもとに、地方公共団体と民間企業の比較をしています。
 
20120627cl_12ex001.jpg
 
 上記の表を見て、何を感じますか? 急速な高度成長の結果できあがった、無駄な設備、その後の急速な経済の停滞、税収の落込み、拡大する社会保障費、公債に頼った旧来の成長の維持といったリスクに対する備えは、民間に比べたら、全くゼロに等しいと言えます。地方公共団体つまりお役人や政治家には、減価償却費の概念がありません。犬でも食べ残した骨は隠すというのに、彼らは手から口へのその日暮らしで、金がなくなったら借金をする。民間のような、いかに付加価値を付けるかの工夫は、単式簿記からは導き出されません。行財政改革という心地よい響きに糊塗された単語は何度も使いながらも、計画が遅々として進まないのは、民間のような、債務超過になったら全員が路頭に迷うといった危機意識がないからです。先送りすれば良いわけですから。
 
 単式簿記が予算準拠主義にもとづいて問題の先送り傾向を助長するのに比べ、複式簿記は発生主義にもとづきます。この点が重要なのです。
 「発生ベース」 の会計とはどんなものかについては、本連載Vol.8-9 「『はい!お会計です』 という声に会計士は何を考えるか?」 をお読みください。そして先月号でも紹介した2011年11月25日の石原東京都知事の定例会見〔12:45~13:10〕 の様子を、もう一度見てください。石原さんも、東京都方式のような、日々の継続的取引から誘導される複式簿記を、なぜ国が採用しないのかと訴えています。先進国で発生ベースでの会計へ移行していないのはドイツと日本だけです。米国、英国、フランス、カナダ、オーストラリア、スイス等はすでに発生ベースへの移行が完了しています。韓国でも最近発生ベースの会計への移行が行われました。ちなみにアジアで日本と同じ単式簿記を採用しているのは、パプアニューギニア、北朝鮮、フィリピンだそうです。
 
 
 
 

 

関連記事

最新トピックス記事

カテゴリ

バックナンバー

コラムニスト一覧

最新記事

話題の記事