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ビジネス 川上徹也の「買いたい」のヒミツ vol.1 「物語」で売ろう! 川上徹也の「買いたい」のヒミツ コピーライター/湘南ストーリーブランディング研究所代表

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なぜか応援したくなる地方アイドル

 
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Negicco 2ndフルアルバム『Rice&Snow』ジャケット
 皆さんこんにちは。コピーライターの川上徹也です。
 今日から始まったこのコラムを読もうとしてくれているあなた。Negicco(ねぎっこ)をご存知でしょうか?
 Negiccoは新潟を拠点にする女性3人組のアイドルグループです。新潟在住で小さな事務所というアイドル市場ではかなり不利な条件にも関わらず、昨年12月に発売されたシングル「光のシュプール」では、オリコン週間CDシングルランキング5位を記録。初の全国ツアーも成功させ、結成12年目にして全国的に人気が高まっています。さらに新潟にAKB48の新しい姉妹グループであるNGT48ができることもあり、元から活動していたNegiccoに今、大きな注目が集まっているのです。
 
 Negiccoは楽曲やパーフォーマンスの評価が非常に高いことでも有名です。ただ、それだけが人気の理由ではありません。彼女たちの「物語」を知って、ファンになった人もかなりの割合でいるのです。
 2003年に4人で結成されたNegiccoには、長い下積み時代がありました。運営母体だった芸能スクールの閉校、中心メンバーの卒業など数々の試練が彼女たちを襲いました。結成当時、小中学生だった彼女たちも20代半ばに差しかかっています。悔しい思いをしたことは数知れず、何度も解散の危機がありましたが、いつかは武道館という高い目標を諦めずに青春時代のすべてをNegiccoに捧げてきました。
 そんな物語を背負っているにもかかわらず、Negiccoの3人はそれぞれに独特のほんわかとした魅力を持っています。だからこそ、彼女たちに接した人の多くは、「なぜかNegiccoを応援したくなってしまう」のです。そうなると自然とライブに通い、CDを買ってしまいます。
 
 Negiccoを店で売っている商品にたとえると、ファンの多くは、商品そのものだけでなく「彼女たちの12年の物語」という付加価値も含めて、消費しているのだと言えるのです。
 
 

小さな会社やお店は「感情的な消費」をめざせ!

 
 人が商品を買いたくなるのはなぜでしょう? 一般的にマーケティングの世界では、「価格」「品質」「広告」「流通」の要素が重要だと考えられていました。確かにこれらの要素は重要です。ただここで勝負しようとしたら、大多数の小さな会社やお店の商売は、やがて立ち行かなくなっていってしまうでしょう。大企業やチェーン店のほうが圧倒的に有利で勝ち目がないからです。
 
 人が商品を買う時、二つのタイプの消費があります。「理性的な消費」と「感情的な消費」です。
 「理性的な消費」とは、「価格」「品質」などのバランスを冷静に考えて買う消費です。日常的な買い物や食事の多くは「理性的な消費」です。
 「感情的な消費」は、「価格」「品質」だけを考えてるとちょっと高く感じても、どうしても買いたいという感情がうまれるので買ってしまうような消費です。趣味や好きなことに使う消費は典型的なものです。他にも、旅行先でのお土産を買う時やファンになった店などを利用する時などは「感情的な消費」と言えます。
 
 業界トップの大企業やチェーン店であればともかく、小さな会社やお店は何らかの形で「感情的な消費」をしてもらわないと勝ち目はありません。そのために有効なのが「物語」なのです。
 なぜなら、「物語」は人の感情を刺激するからです。感情が刺激されると興味を持ち記憶にも残ります。また誰かにも勧めたくなるのです。Negiccoの物語を知って興味を持ち、楽曲やパフォーマンスにふれてファンになっていくように。
 
 文字が発明されるはるか以前から、人類は大切なことを「物語」にして語り継いできました。その“人の感情を動かす”という特性を「ビジネス」や「商売」などで使って行こうというのが、私が考える「物語で売る」というマーケティング手法なのです。これに私は「ストーリーブランディング」という名前をつけ、確立しました。この連載では、「ストーリーブランディング」をわかりやすく解説し、その活かし方を紹介していきます。
 
 

重要なのは「本当にあった」ということ

 
 では、マーケティングで使う「物語」は、小説や映画などの一般的な物語とはどこが違うのでしょう? 私は以下のように定義しています。
 
 
 お客さん、社員、取引先などに対して語る、本当にあった(フィクションではない)、
 「個人」「会社」「お店」「商品」などにまつわるエピソードやビジョン。
 
 
 特に重要なのは「本当にあった(フィクションではない)」の部分です。小説・ドラマ・映画などの一般的な「物語」と違うのはこの部分です。エンターテインメント系の「物語」は、それ自体を純粋に楽しむのが目的ですが、マーケティングにおける「物語」はあくまで手段です。受け手に共感してもらい、商品を買ったりサービスを受けたりしたくなってもらうのが本当の目的です。手段であるからこそ、物語が「嘘」であったり「創作されたもの」であることは許されないのです。
 
 以上のような理由から、マーケティングにおける「物語」は、純粋なエンターテインメントのように長かったり、複雑だったり、文学性がある必要はありません。できるだけ短くわかりやすくシンプルな物語にする必要があります。そのために、私は「物語で売る手法」についてさまざまな法則を打ち立ててきました。この連載では、それらの法則についてもご紹介していきます。
 
 
 次回は、マーケティングにおける「物語」をどのように発見していけばいいか、についてお伝えします。
 
 
 
 
川上徹也の「買いたい」のヒミツ
vol.1 「物語」で売ろう! 

 著者プロフィール  

川上 徹也 Tetsuya Kawakami

コピーライター/湘南ストーリーブランディング研究所代表

 経 歴  

大阪大学卒業後、大手広告代理店に入社。営業局、クリエイティブ局を経て独立。コピーライター&CMプランナーとして50社近くの企業の広告制作に携わる。東京コピーライターズクラブ(TCC)新人賞、フジサンケイグループ広告大賞制作者賞、広告電通賞、ACC賞など受賞歴は15回以上。ストーリーの持つ力をマーケティングに取り入れた「ストーリー・ブランディング」という言葉を生み出した第一人者としても知られ、現在は広告制作にとどまらず、そのノウハウを個別のアドバイスや講演・執筆などを通じて提供している。著書は『物を売るバカ』(角川新書)、『キャッチコピー力の基本』(日本実業出版社)、『価格、品質、広告で勝負していたら、お金がいくらあっても足りませんよ』(クロスメディア・パブリッシング)など多数。 最新刊『1行バカ売れ』が好評発売中。

 オフィシャルホームページ 

http://kawatetu.info/

 
(2015.5.20)
 
 
 

 

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