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コラム もういっぺん、作ってみようや! vol.11 スランプ知らずの仕事術 もういっぺん、作ってみようや! 岡野工業株式会社

コラム
 

成功したら新しい挑戦をする

 
 「町工場って、部品にしろ完成品にしろ、自分の得意なものを作りつづけるのが普通だ。岡野さんのところは、なんで次から次へと新しい機械、新しい技術が開発できるんだ?」
 
 これもしょっちゅう聞かれることだ。おれは自動機っていう、人力を加えなくても自動的に製品を作ってくれる工作機械の、プラントを手がけてきた。自動機のプラントってのは、実は金型屋も、プレス屋も、工作機械メーカーでも作れないものなんだ。
 どこもできないからうちに持ち込まれるんだけど、おれは、自動機を開発したら、金型も一緒に付けてメーカーに売っちまうことにしてる。「そんなすごいプラントが作れるんなら、自社で工場を建てて製品を作ってどんどん売れば、大儲けできるじゃないか」 とよく言われるよ。確かに、うちがそうやってメーカーに転身してたら、すごく儲かったかもしれない。でも、バブルの後に潰れちまってたんじゃないかな。 
 儲かるからって特定の製品だけ扱って規模を拡大すると、製造コストも人件費も膨らんで、会社は守りに入らざるを得なくなっちまう。なんでって、その製品が儲かるとわかったら、似たような製品を作る会社がどっと出てきて、挙げ句の果てに価格競争に巻き込まれて利益率が下がっちまうからな。俺はそれがわかってるから、プラントを作ったら金型付きで売っちまう。そして自分は、別の研究に取り組むんだ。
 
 だから、うちは大きくならない。いや、大きくしないと言ったほうがいいかな。自分がやりたいことをやってお金を儲けて、食いたいものを食えれば(笑)、それ以上望むものはない。一つのものが成功したら、さっさと違うところに行くのがいいんだ。「今度はもっとすごいものに挑戦しよう」 ってね。そっちのほうがよっぽど面白いと思わないか?
 
 

同時並行でスランプを回避

 
 「岡野さんにスランプはないの?」とも聞かれるな。
 ないなぁ(笑)。 一つが終わったら次へ行くから、そのヒマがないんだな。それに、仕事の進め方も人との付き合いも、俺は同時進行だからね。スランプってのは、一つのものに特化してるから、つまずいたときに行き場がなくなってスランプに陥るんだよ。
 「つばめが渡っていけば、雁がやってくる」―― 親父がいつも言ってたことだ。初夏にやってきたつばめが、秋になって、南に帰っていくと、北から雁がやってくる。その雁だって、春には北へ帰っていく。わかるかい? つばめでも雁でもいい、どんな渡り鳥がやって来ても対応できるようでいなければダメだってことだ。
 
 言うのは簡単だけれど、これを実行できる会社が少ないんだよ。一つの仕事で儲かってしまうと、その部門に大きく設備投資したくなる。その仕事専業にしてしまう会社も出てくる。でもな、バブルで倒産した会社って、みんなこれでやられちゃったんだよ。
 一つのことをやるほうが個人だって会社だって、確かに楽だ。それで儲かれば言うことはない。でも結局、それだけになっちまう。そして倒産。
 おれは 「痛くない注射針」 でも成功したけれど、「これでいい」 なんてことは思わなかった。いつも同時並行で別の挑戦を続けてきたから、いまの岡野工業があるのさ。
 
 

ラッパを吹く技術を身につけろ

 
 「自分をアピールするのが下手で悩んでいます。どうすれば岡野さんみたいに人を振り向かせられるようになりますか」 なんてことも聞かれる。いい大人がそんなことで悩んでちゃ困るぜ(笑)。 そりゃ、下手なんじゃない、アピールしてないんだよ。どんどんしゃべれ。
 日本じゃ、口数が少ないほうが人として深みを感じさせるとか、目立とうとするのは品がないなんて言うだろう。冗談じゃねぇ。しゃべんなきゃ、その人の考え方も主張も伝わらないよ。「話さなくてもわかっていてほしい」 とか、「皆まで言わせるな。思いを察してくれ」 なんて、そっちのほうがよっぽど身勝手で、品がないと思わないかい?
 
 ただし、しゃべるときは、10のものを100にも200にも膨らませられなきゃダメだね。つまり 「ラッパ」 だよ。
 ラッパってのは、戦国時代からある、戦のときの情報戦略だ。伊賀とか甲賀とかの忍者が敵の領地に潜入して、「もうすぐ数万の軍勢が攻めてくる。早く白旗を上げたほうがいいぞ」 と流言をながす。あらかじめ兵の存在感を何十倍、何百倍にも感じさせとくんだ。それだけで戦意喪失してしまう大将だっている。言葉ってのは、それくらい力があるってことなんだ。
 ゼロを10だと言うのはウソになるけど、10を100だと言うことはウソじゃない。「大風呂敷」 だ。おれなんか、いつもでっかい大風呂敷を広げてるよ(笑)。 そのほうがみんなの話題になるし、自分をアピールできるからね。
 ラッパは下を向いてこそこそ吹いたって誰も信じてくれない。胸を張って堂々と吹け。会社の営業会議なんかでしっかりラッパを吹けるやつが、結局、自分の話やプランを聞いてもらえることになるんだ。仕事をがんがんやろうという人は、アピール下手じゃダメだ。何が何でも核心を相手に伝えるための、ラッパを吹く技術を身につけなくちゃね。
 
 

「加点主義」 で行こう

 
 人に何かを伝えるときに、日本人が 「沈黙は金なり」 と言って守りに入ってしまうのは、「出る杭は打たれる」 なんてしょうがねえことを教えられてきたからだろうな。
 俺に言わせりゃ、そもそも学校ってところが、減点主義の最たるもんでね。積極的に自分なりの発言をして間違えた子供が恥ずかしい思いをして、単にテストの問題に間違えずに答えた子供が優等生だと評価される。これって、おかしくないか?
 やっぱり、なにごとも減点主義じゃダメだ。加点主義で行かなければね。失敗してもいいから何かアイデアを出そう、テーマを出そうといろんな挑戦をしているうちに、思わぬ発見やヒントが生まれて成功のチャンスにつながるもんなんだ。たくさんミスをして失敗するからこそ、成功に近づける。
 
 今度のロンドン・オリンピックじゃ、日本の体操はメダル確実だと言われているようだね。日本はいっとき 「体操王国」 と言われたけれど、長く低迷してしまった。28年ぶりに男子団体総合で金メダルを取って復活を果たしたのが、2004年のアテネ五輪だった。
 どうして日本が躍進できたかというと、アテネから評価方法が 「加点主義」 に変わったからだそうだ。難度の高い演技に挑戦して審判にアピールすることが勝利の条件に変わった。日本の選手は、評価方法が変わったときに勝てるように、訓練を続けていたそうなんだ。
 ミスがないってだけの演技じゃつまらないよ。失敗があっても、すごい技を決めたやつが評価されなきゃ、おかしいってもんだ。会社の仕事だってそうじゃなきゃ、面白くないよな。
 
 
さあ、次はいよいよ最終回だ。俺の得意な 「どうしたら先が読めるようになれるか」 ってことについて話してみよう。楽しみにしててくれ。
 
 
 
 
 
 もういっぺん、作ってみようや! ~町工場最強オヤジ!岡野雅行の直言~
第11回 スランプ知らずの仕事術

 執筆者プロフィール  

岡野雅行 Masayuki Okano

岡野工業株式会社 代表社員

 経 歴  

岡野工業株式会社代表社員。十代初めから、実父が営んでいた岡野金型製作所で職人修業を開始。勤勉に仕事にいそしむかたわら遊び仲間も多く、仕事と遊びの双方で「向島の岡野雅行」の名を上げ始める。1972年、製作所を引き継ぐと 「岡野工業」 と社名を変更。金型だけでなくプレスも導入し、高い技術力を持って大手との取引が増え始める。インシュリン用の注射針で主流になっている「ナノパス33」をはじめ、ソニー製ウォークマンのガム型電池ケース、携帯電話のリチウムバッテリーケース、トヨタプリウスのバッテリーケースなど、世界的な躍進を遂げた製品はどれも岡野工業製作の部品が支えているとすら言われている。

 
 
 
 

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