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コラム もういっぺん、作ってみようや! vol.4 情報収集術について もういっぺん、作ってみようや! 岡野工業株式会社

コラム
 
 

情報が入ってくる人間になれ

 
 今はインターネットの時代で、あそこにゃあらゆる情報が詰まっていると言われてる。だけど、パソコンの前に座ってたって 「お宝情報」 は手に入らないって言いたいね。大事なのは、人と会って、話し、聞き、自分にとって価値のある情報は何かを確かめることなんだ。やたらと情報を集めるより、情報が “入ってくる” 人間になれと言いたいよな。
 職人っていうと、無口で人付き合いが下手。ひたすら自分のウデを磨いていいモノを作ることで満足してるってイメージがあるだろ? おれはそうじゃない。どんどん人の中に入っていくし、しゃべりにだって自信がある。仕事でいい結果を出すためには、自分から外へ出ていってしゃべれなきゃダメだよ。
 技術の説明をするときだって、しゃべりが下手じゃ、相手から 「まどろっこしい」 と思われて終わりだよ。相手が聞きたいポイントをつかんで説明するから 「こいつは使えるな」 と思ってもらえるんで、「あいつを呼んでもロクな話が聞けない。呼ぶ価値はない」 なんて思われちゃったら、情報交換だってできなくなるよ。
 人に信用されて、かわいがってもらうには、人との付き合いを大事にすることだ。そうしていれば 「今度こんな製品を作ったぜ」 「こんな設備を入れたから見に来なよ」 と声をかけてもらえる。すぐには役に立たなくても、行けばいろいろ勉強になるし、何年か後に 「あのとき見た技術がここで使えるんじゃないか」 ってなるんだな。新しい技術を開発するにしても、時代に即応して儲けるにしても、人とどんどんしゃべって、付き合って、最新の情報をとりこぼさないようにする情報収集力が大切なんだ。
 
 

石とダイヤモンドを見きわめる力

 
 でもな、声をかけてもらえるのを待ってたって情報は集まってこないぞ。最新情報の発信基地はやっぱり大企業だ。そこの人間といい付き合いができてないとダメだ。彼らはいつも5年先、10年先を見て仕事をしてる。彼らと話をしていれば、技術がどんな方向に進んでいるか、最新の素材開発はどんな状況なのかがわかる。これが 「お宝情報」 なんだよ。「こんな技術を開発できないか」 「この部分が作れると製品化に大きく前進するんだけど」 といった相談ほどおいしい話はないね。「どうぞ儲けてください」 って話なんだからさ(笑)。
 ところが、せっかくの話なのに、自社の技術や製品が石なのかダイヤモンドなのかの判断がつかない人もいるんだよ。情報がないから、世間がどれだけその品物を欲しがってるか、どれだけの価値があるかわからないんだ。それで間違った値付けをしちゃう。
 以前、下請けさんに金型の仕事を外注したことがあった。おれはいつものように 「目一杯高く見積もりなよ」 と言ってあげたよ。でも、発注元にとってはその何倍もの価値があったみたいなんだな。そのときにつくづく思った。自分の技術や品物の世間的な価値を見損なうのが、どれだけもったいない話かってな。下請けさんは見積もりが通って満足してたけど、その品物の先を見据えて、いずれ需要が高まるだろうなんてことがわかっていたら、もっと高い見積もりが出せてたはずなんだ。正しい情報をつかむのはそれだけ大事だっていうことだよな。
 
 

さりげなく語られる情報は信用できる

 
 発注元の大企業の情報をつかむのは大事だけど、そういう企業と付き合いのある他の仲間からの情報もずいぶん貴重だ。
「あの会社は中国に工場を出すらしい。3年先には大幅な値引きを要求してきそうだぞ」
「あそこはこんな技術を求めている。いくら高くても買う用意があるらしい」
「このままじゃ、あの技術は10年後になくなる。そろそろ見切り時じゃないか」
 この手の情報は仲間との付き合いがあってこそだ。それをやめちまって、情報が入ってこなくなったら会社の命運に関わるぞ。そんなことでつぶれていった会社を、おれはいっぱい見てきたよ。
 ところがだ。必要な情報ってのは、あらたまった場所で出てくるってことはほとんどないんだよな。仲間どうしで酒を飲んでワイワイガヤガヤやっているときに、「このあいだA社に行って耳にはさんだんだけどさ・・・」 なんて感じで、ポロリと極上の情報が出てくるわけだ(笑)。 だからさ、てめえの用があるときだけ会う、顔を出すってんじゃダメなんだよ。「あいつは普段から付き合いがいい。信用できる。おれたちの仲間だ」 って思ってもらえてないと、お宝情報なんか入ってきやしねえよ。
 そうやって気持ちが通じあってるから、「これを岡野と成功させたい」 と思うプロジェクトが出てきたときに、「あ・うん」 の呼吸で 「今度うちでこんなプロジェクトが立ち上がるんだけど」 っていう情報がもらえるのさ。普段のふれあいの中でさりげなく語られる情報が一番信用できるんだよ。
 
 

人と人とのつき合いは「かけ算」だ

 
 チャンスは人が持ってくるものだ。そう思うから、おれは人との付き合いを大切にしているんだ。お得意先や取引先の人を海外旅行に連れていくのも、付き合いを大切にしたい、いろいろ教えてくれた人に報いたいという気持ちがあるからさ。
 「岡野さんはすごい。あんなに気前がいい人はいないね」 なんて言ってくれる人がいると、話を聞いた人の中には 「岡野って男に会ってみたい、仕事をしてみたい」 って考えてくれる人が出てくるだろう。そのほうがテレビのCMなんかよりよっぽど効果があるよ。おれを知っている人、おれと仕事をしている人が発信源になってるんだから、信頼感は比べものにならないくらい高いはずだ。
 「持ちつ持たれつ」 って言葉があるだろ? あれが大事なんだ。おれだって、たまには、相手から5の情報をもらっても2しか返せないときだってあるよ。でも、返そうという気持ちが大事なんだ。
 それにな、相手が持っていない情報なら、2だって十分に価値があるんだ。人と人との付き合いは 「掛け算」 なのさ。ゼロの人とはいくら掛け算したってゼロだけど、相手から5が来て、せめて2が出せれば、二人で10の価値が生めることになる。それは二人の共有財産になる。な? 掛け算だろ? ほんとに価値ある情報は、そんなふうに人ととことん付き合って、触れ合う中からつかむものなんだよ。
 
 
 
 とまあ、今回話した 「人と情報のマネジメント」 は、おれに言わせれば 「世渡り力」 ってことになるんだけど、それだけじゃあ商売は回っていかない。次回は、従業員4人の会社に一流の仕事が舞い込んでくるわけを話そう。「オンリーワンの会社をどうやって作るか」 ってところだな。楽しみにしててくれ。
 
 
 
 もういっぺん、作ってみようや! ~町工場最強オヤジ!岡野雅行の直言~第4回 

 執筆者プロフィール  

岡野雅行 Masayuki Okano

岡野工業株式会社 代表社員

 経 歴  

岡野工業株式会社代表社員。十代初めから、実父が営んでいた岡野金型製作所で職人修業を開始。勤勉に仕事にいそしむかたわら遊び仲間も多く、仕事と遊びの双方で「向島の岡野雅行」の名を上げ始める。1972年、製作所を引き継ぐと 「岡野工業」 と社名を変更。金型だけでなくプレスも導入し、高い技術力を持って大手との取引が増え始める。インシュリン用の注射針で主流になっている「ナノパス33」をはじめ、ソニー製ウォークマンのガム型電池ケース、携帯電話のリチウムバッテリーケース、トヨタプリウスのバッテリーケースなど、世界的な躍進を遂げた製品はどれも岡野工業製作の部品が支えているとすら言われている。

 
 
 
 

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