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イノベーションは、一人の単純な「気づき」から生まれる。<5の1>

――この章では、「マーケティングについて」5回に分けて綴りたい。マーケティングの種となるのは商品である。商品が生まれるまでには膨大な基礎試験研究・技術開発があり、その後に商品開発がある。このプロセスを蔑ろにし、目先の利益だけを追いかけると、クライスラーやGMのようになる。
 経営というものは、目先の利益を追いかけることが本来の目的ではない。人を作り、育てることが、経営の真の目的であり道である。そこで、アメリカという国の生い立ちに触れながら、目先のことに振り回されずにシッカリと足元を見て歩くことが重要だということを、これから説く。ぜひ最後までお付き合いいただきたい。
 
 

売れる商品・サービスは「勘=気づき」で勝負をかける

 結論を先に述べると、既存のマーケットでシェアを争う成熟商品・サービスであっても、目先を変えた売り方をすれば既存のマーケットでも新市場にできる可能性がある。では、「売り方の目先を変える」とは何を指して言うのだろうか。利便性や機能性など付加価値の部分を変えることを指すのか、おもてなしの心のようなソフトの在り方を変えることを指すのか。
 この問いを設定するとき、大企業は、主観的で裏づけのない要素は排除する。その代わり、客観的な科学的手法に基づいたマーケットリサーチをかける。市場調査の「内容」はさておき、客観的な科学的根拠・手法によるマーケットリサーチで「すべて正しい答え(売れる物・利用されるサービス)」が導き出されるかと言えば、そこには疑問が残る。必ずしも納得のいく答えにはならない場合が多く、マスの平均値を狙った答えにしかならないと言ってよい。
 言い換えれば、市場調査の答えがすべて「正しい」となれば商品開発の失敗はなくなり、大企業も中小企業も、未来永劫、成長し、発展し続けることになる。そうでないところにマーケットリサーチの疑問があり、またリサーチの方法やターゲット、設問内容で答えが大きく変わることにもなるのである。
 しかしながら大企業は、時代のニーズが進化し、世の中の「wants」が変化しても、マスマーケットのスケールメリットに固執する。そして、一本釣りよりは投網かトローリングでゴッソリと収益を捕ろうとする。
 マーケティングを考えるとき大切にしなければならないことは、「顧客満足」という主観的で厄介なものの定義を見つけ出し、それらを商品化・サービス化することである。多様化した消費者の価値・要望をどう聞き入れ、顧客が大切にする価値を何に見出し、どのようにカタチにして提供するかを考えることである。
 大企業は資金力にモノを言わせてマーケットリサーチを展開する。そのリサーチは平均的で、実のところ、顧客の痒いところに手の届く類のものではない。要するに、消費者の平均値を求めて商品開発しているにすぎない。
 そうやって開発された商品が生産ラインに乗り、大量に作られ、一斉に市場に投入される。ここが大企業が本領を発揮するところである。資金力にモノを言わせてメディア攻勢をかけ、市場を創造していく。消費者が本当に欲しいものを提供するのではなく、「欲しがるように仕向けていく」のである。それが大企業である。
 では、中小企業についてはどうだろうか。
 莫大な研究開発資金を投入できるはずはなく、人材は乏しく、マスメディアを総動員させるだけの人脈的資源もない。流通の販路を開拓してニーズを起こし、販売後も消費者の声を商品に即刻反映して、次々とラインナップを揃えていくなどということは、当然無理な芸当である。中小企業の問題は、自ら市場を作り出すだけの潤沢な経営資源がないという一事につきる。
 
 来年には2000年代に入って最初の10年が経過する。その最後で、サブプライムローンの証券化に端を発した08年の金融システム崩壊が引き金となって、1980~90年代的な経済成長に合わせた経営手法が通用しなくなった。それが、ここ数年の世界的大問題である。
 大企業が得意とする需要創出の方法にも限界がきている。生産者側の都合で商品やサービスを押しつけても消費者は見向きもしなくなっているというのが現実である。経産省の調査ではデパートの売上が1年近くにわたり減少を続け、ここ2ヶ月は昨年同月比で2ケタ台の減少としている。
 消費者は、あり余るほどの情報を得て、自分で商品を判断できる選択眼を養うに至っている。70年代からの高度経済成長と85年からの不動産バブルで一億総中流階級を経験し、高級で高価なモノを購入した体験から、多くの日本人は、モノの本質的な価値を求めるようになっている。
 こう考えてくると、作り手主導で消費者の意識をコントロールをするのはいよいよ困難な時代になってきたことが分かる。かつての大量生産・大量消費の手法が、21世紀には受け入れられないのである。単に大量のモノを作れば良いとするところから経済の舵を切り替えなければならない。
 
 
 

橋本英夫 イノベーション基礎学 ハッピー

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