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 皆さんこんにちは。ガラスデザイナーの川上麻衣子です。先月から始まった私のコラム、今回は2回目です。どうぞお付き合いください。
 
 

ガラスと女性は強い

 
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川上麻衣子作品例・小鉢 「WAVE」 径110㎜-高さ60㎜ 
 前回は、「ガラスは実は強いんです」というところまでお話しましたね。そう、ガラスって強いんです。それも、薄いガラスほど強いんです。おもしろいんですけど。
 皆さんは小さい頃、ガラスにお湯を注ぐ時は熱すぎると割れてしまうから、ちょっと冷ましてから入れるよう教わったと思います。でも実は、割れるか割れないかって、お湯の温度よりガラスのほうの要素が大きいんですよね。耐熱性のガラス以外は、厚いものは熱の伝わり方が遅いので自分の中に温度差が生まれてしまって、それで割れるんです。でも、薄いと熱がすぐに伝わって温度差ができないから、かえって割れません。この特性を言いかえるなら、「環境への順応が早い」「順応性が高い」ということになるでしょうか。
 
 ガラスのこの特性、私は常々、「しなやかでタフ」というふうにも表現したいと思っています。たとえば、ガラスづくりの現場で、へこたれた男性を脇目にたくましく創作に打ち込む女性の作家さんは、私にはとてもキレイに、凛として見えます。前回最後に「ガラスの凛とした強さが好き」というお話をしましたね。ガラスも薄いものが高級とされるし、キレイだけど、そういうものほど、何度もタフな目にあっては生き残ってきた“したたかなやつ”かもしれませんよ。
 
 

あきらめから広がった世界

 
 実は、私はガラスづくりを続けてくる中で、「あきらめ」が大きな転機になりました。
 小学3年生の時にスウェーデンで、工房で職人さんがガラスを吹くのを見て釘付けになったのが、ガラスと出会った最初です。それから中学生になって芸能界に入って、女優のお仕事を続けながらも、胸の中に、ガラスへの憧れはずっとあったと思います。今も最初の出会いの感じは残っていて、きっと、胸の奥のどこかにある、そのキラッとしたものに向けて、創作を続けているのかもしれません。
 
 ただ、女優の仕事と並行してだから、技術は専門の作家さんや職人さんに叶いません。特に日本は一般的にガラス作家とガラスデザイナーが混同されています。だから「ガラス作家」として見られる自分に居心地の悪さがずっとありました。それで、ある時、『デザイン展』っていうくくりで個展を開いたんですね。「ガラス作家・川上麻衣子」を自分からあきらめたんです。でもそれで後ろ向きな気持ちには全然ならなくて、むしろすごく救われた感じがあって。「作家じゃなくていいんだ。デザイナーでいいんだ!」って区切りがついたら、かえって発想が広がってきました。
 
 当時は一緒にやってくれるスタッフも増えてきた頃で、それからは自分の技量でつくれる以上のものをデザインできるようになりました。あきらめることで、かえって可能性が広がりました。
 
 

煮詰まってもいい

 
 ただ、時々煮詰まるのは今も同じです。壁にぶつかったら? まったく違うことをするのが一番です。私は女優の仕事もあるのがいいんだと思います。両天秤かけてるみたいに受け取られるかもしれませんが、自分の中でガラスデザインと女優業をお互い刺激しあう関係に置ければ、両方やってていいと思ってます。
 
 それと、単純作業ですね。単純作業はあの「時間」がいいですよ。あとは運動。体を動かすこと。人って、頭を空っぽにするのが一番難しいから、瞑想や運動で何も考えない時間が20秒でも30秒でもとれれば、すごくスッキリします。不思議ですけど、それをしてからもういっぺん挑んだら、「なんでこれに気付かなかったんだろう」っていうアイディアやイメージがスッと出てくることがあります。
 
 だから、やっぱり、煮詰まることも必要です。見えてるものも見なくなるまで粘るっていう作業そのものが大事。「降りてくる」ってよく言いますけど、最初から降りてきてくれるものでもないですし。デザイン画でも、「考えなきゃ! 締め切りもあるし、でもこのまま行ってもおもしろくないし・・・ あー、もうっ!」ってなって、いったん離れて、戻った時に、「あっ!」と。そこからは私、速いですよ。徹夜も全然平気。チカラが湧いてくるあの感覚が楽しくてしょうがない(笑)。
 
 そういえば最近聞いたのが、運動すると“運が動く”んですって。仕事に行き詰まったり、「運が向いてないな」と思った時は体を動かしましょう。運が動きますよ。
 
 
(構成:編集部) 
 
 
 
 
透明なチカラ ~あるガラスデザイナーの工房から~
vol.2  あきらめることと、あきらめないこと

 執筆者プロフィール 

川上麻衣子 Maiko Kawakami
ガラスデザイナー/女優

 経 歴 

スウェーデン出身。インテリアデザイナーの両親のもと、幼少期からスウェーデンと日本を行き来して過ごす。14歳でテレビドラマに出演し、『3年B組金八先生』の生徒役で一躍人気者に。映画『でべそ』では第6回日本映画プロフェッショナル大賞主演女優賞を受賞。女優業と並行してガラスデザイナーとしても、北欧のガラス工芸に影響を受けた作風で定期的に作品を発表。2005年からは隔年で個展を開き、旺盛な創作活動を続けている。

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