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2016年4月、「追加緩和見送り」に対し市場は厳しく反応

 
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日銀は4月28日の金融政策決定会合で、物価上昇率2%の到達時期を先送りするとともに、追加緩和を見送ることも決定した。事前に「追加緩和があるのでは?」との観測と期待が広がっていた市場は、肩透かしを食らった格好となり、株安・円高が一気に進行した。
 
今年1月下旬に、マイナス金利が導入されたときには「銀行が日銀に資金を眠らせておくだけではなく、企業への融資へとシフトしていくことで企業活動が活性化し、雇用や賃金の改善をもたらす」との狙いが強調された。しかし、導入から現在に至るまで、その効果は限定的にしか現れていない。
 
他方、2017年4月に予定されている消費税率10%への引き上げが「延期される」との報道もなされている。国内外の経済の先行き不透明感、そして熊本・大分における震災被害の大きさを鑑みると、消費増税によってデフレ脱却がより遠のくという恐れは確かにある。
 
5月26~27日には 主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)が開催され、安倍晋三首相は世界経済がリーマン・ショックの前と似た経済情勢であることを強調した。各国首脳からは異論も出されたが、安倍首相のこの主張は、日本において消費増税を先送りすべき理由がある、との主張につなげるための発言とも受け取れる。
 
次回の金融政策決定会合は、6月15、16日の予定。それまでにマイナス金利の影響はよい形で表れるだろうか?
 
 

各業界でのマイナス金利に関する判断

 
大手銀行7グループの2016年3月期決算が出そろった5月16日。最終的な儲けを示す純利益の合計は前年比5.5%減の2兆7242億円で2年連続の減益となった。日本銀行の大規模緩和や競争激化による金利低下で、国内の貸出から得られる収益が減っている。また、好調だった海外事業にも陰りが見え始めていることも指摘された。
 
消費者の関心が高い住宅ローンについては、マイナス金利の影響で借り換えが急増しているが(前年比3.3倍)、新規の借り入れが急増したとまでは言えない(11%増)。
 
生命保険業界にもマイナス金利の影響は出始めている。生保各社は貯蓄性の高い一時払い終身保険や個人年金など一部商品を販売停止、または販売抑制する方針を固めている。これらの商品は保険金を長期間国債などで運用するため、金利低下の影響を受けやすいためだ。
 
日銀が期待する企業活動活発化への動きは今のところ鈍い。大方の大企業および中小でも実績のある優良企業では、すでに手元資金を潤沢に保有している企業が多く、マイナス金利を活用して社債やCP発行などの資金調達を「検討する」との回答は12%にとどまり、「全く検討しない」が88%に達している。4月に行われたロイター企業調査によると、日銀が導入したマイナス金利の拡大に8割近い企業が反対しており、導入自体が失敗との見方も目立った。
 
なお、マイナス金利制度そのものとは別に、マイナンバー制度の実施も預金の減少に影響していると考えられる。預金者が、自身の資産について国税庁などに把握されることを恐れる心理状態から、銀行預金をやめ、自宅にタンス預金として貯蓄しておく考えが広がりつつあるのだ。預金が集まらない銀行は、国債を購入する力がなくなっていくため、やがては国債市場への影響も現れ始めるだろう。
 
 

海外のマイナス金利政策の効果と課題

 
2016年2月18日に放送されたNHK『クローズアップ現代』(4月以降から『クローズアップ現代+』)で、すでにマイナス金利が導入されたデンマーク、スイスの事例が紹介されていた 。
 
2012年にマイナス金利を導入したデンマークでは、特に首都コペンハーゲンでビル、マンションなどの建設ラッシュが起きていることが紹介されるとともに、中央銀行副総裁の話として、住宅バブルの様相を呈してきていることへの懸念が語られた。
 
また、スイスでは0.75%までマイナス金利が拡大されたことで、銀行の収益が悪化し、預金者に「個人預金の金利をマイナスとする」というしわ寄せが出始めていることが紹介された。スイスの銀行では100万円預けると1250円を預金者が払わなければいけない、という事態も起こりつつある。
 
 

6月、追加緩和は行われるか?

 
三菱UFJフィナンシャルグループの平野信行社長は5月16日の決算会見で、「金融市場の不透明感から、企業は新たな投資にやや慎重。市場が安定化すればマイナス金利の政策効果が出てくることを期待したい」と述べている。
 
そもそも「追加緩和への期待」が高まるということは、金融緩和策の効果が上がっていないことへの不満を反映しているとは言えないだろうか? 日銀・金融政策会合が物価上昇率2%の到達時期を先送りしたということは、日銀自らが金融緩和政策の不十分さを認めたとも受け取れる。
 
黒田東彦総裁は、金利のマイナス幅を拡大することができると述べ、追加緩和策の余地がまだまだあると強調する。しかし、中途半端な緩和策をたびたび実施しなければならないとすれば、やがては日銀の追加緩和策への期待そのものが薄らぐだろう。
 
すでに述べた通り、マイナス金利の拡大に8割近い企業が反対している現状では、もはや「マイナス金利幅を拡大すれば、すなわち経済が活性化する」とは言えなくなっている。加えて、過去にバブル景気とその崩壊で痛い目にあっている日本は、デンマークのようなバブル的な景気の上昇には、慎重になるべきだ。
 
2013年4月4日に、黒田総裁が打ち出した異次元の金融緩和が「黒田バズーカ」と呼ばれたのは、市場に与えるインパクトが大きかったからだ。マイナス金利政策についても、同等の驚きをもって迎えられたのだが、現時点では限定的な効果しか上がっていないという現実がある。
 
もう空砲ばかりを打っている余裕はない。黒田総裁の言葉に「まだ重みがある」うちに 、適切な金融緩和政策を打ち出さなければならないだろう。
 
 
 
(ライター 河野陽炎)

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